燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 そうだ、リィウスだ。彼をさがさねば。ディオメデスの足は動いていた。
「やっぱり行くのですか? 残念だな。お別れですね」
 振り返る余裕もなく扉に向かった。だが、廊下に出ようとした、まさにその瞬間、ディオメデスは背後に風を感じた。

 まさに、一瞬のことだった。
 ディオメデスは、咄嗟に振り向き、身体を相手に対して構えていた。
 放蕩にひたり、遊び歩いてはいても、武芸の鍛錬をおこたららなかった成果である。
 相手は、またも感心した、というふうに眉を丸めた。
「おやおや、案外やるものですね。ただの甘やかされた金持ちの坊ちゃんというわけではなかったようで」
「どういうつもりだ?」
 カニディアは馬鹿にしたように笑っている。だがその右手には鋭い短剣が光っていた。
「マルキアへの餞別せんべつにあなたの命をもらいうけようかと思ってね」
「俺を殺してなんの得がある?」
「マルキアが喜んでお礼をくれるでしょうよ」
「金が欲しいのか?」
「それもありますが、仕事の伝手も欲しいのでね。あの女は客になりそうな連中の情報をわんさかにぎっているんでね。あんたには、あれこれ余計な話もしてしまったし」
 最初から殺すつもりで口が軽かったのだろう。
「おまえなんぞにくれてやるほど、俺の命は安くないぞ」
 言うや、ディオメデスも腰にたずさえている護身用の短剣に手を伸ばした。
 相手が放った新たな攻撃をかわし、負けじと応戦する。
 何度か互いの武器をかわし、隙を狙って攻め合う。
「うっ!」
 ディオメデスの剣の先が、かすかにカニディアの頬に擦れ、血の火花が散る。
 有利だと思ったまさに次の瞬間、ディオメデスは床のモザイクの割れ目に足を取られた。
「うわっ!」
 カニディアが笑ったのが見えた。彼の剣先が踊る。
 来る! そう思って、不覚にも目を閉じてしまった。
 耳に響いてきたのは、呻き声だった。

「ディオメデス、大丈夫か?」
 姿が見えなくなっていたアウルスが剣を手に立っている。銀色の刃の先からは血がしたたっており、その下にはカニディアの骸があった。
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