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三
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「いったい、なんだ、あの連中は?」
「世のなかに不満を感じている奴らですよ。危ない、こっちへ」
「まて、リィウスがあそこにいる」
だがリィウスの姿も、あわてふためく客たちの背にまぎれてしまって見えない。焦るディオメデスの腕を、相手はさらに強く引いた。
「リィウスはウリュクセスが守りますよ。商人ですからね、金になるものは粗末にしません。抜け目のない男ですから、すぐに逃げる算段をつけますよ。むしろ、あなたの方が危ない。あいつらは、ここにいる者が皆、敵だと思い込んでいるんですよ。偉大なローマを堕落させ、破滅にみちびくおぞましい存在だと信じ込んでいるんだ。ほら、こっちへ、あそこに隠れる場所があります」
「え? お、おい!」
カニディアに腕をつかまれたまま、ディオメデスは広間を出て、廊下を曲がってすぐのところにある小部屋に連れていかれた。
小さな物置小屋らしく、普段つかわない什器などを片付けておく場所のようだ。
「い、いったい何が起こったんだ?」
「暗殺ですよ。彼らはローマの改革をのぞんでいる正義漢のやからなんです。自分たちがローマを変えるんだと思い上がっている愚かな奴らだ。一人の為政者を殺したところで、なにが変わるというんでしょうね。どのみちあらたな権力者が次の世界を我が物顔にして、またあらたな苦労を呼ぶだけでしょうに」
「あ、あの男は、そんなに大物なのか?」
ただの裕福な老人のようにしか見えなかったが、元老院の有力人物なのだろうか。
カニディアが眉を丸めて、次に笑みを見せた。
「気づかなかったのですか? あの年寄りが皇帝なのですよ」
「なんだって!」
ディオメデスは叫んでしまった。
「こ、皇帝は離島で休養中なのでは……?」
「たまにお忍びで帰ってきては、こういった場所で楽しんだりするんですよ。知っていましたか? 皇帝の〝稚魚〟を手をつくして集めて島へ送りこむのは、ウリュクセスの仕事のひとつなんですよ」
稚魚というのは、離島の宮殿で、皇帝の性の相手を勤める幼い愛人たちである。年端もいかない子どもを、己の性欲解消の道具にしているという悪い噂が皇帝にはつきまとっている。
「世のなかに不満を感じている奴らですよ。危ない、こっちへ」
「まて、リィウスがあそこにいる」
だがリィウスの姿も、あわてふためく客たちの背にまぎれてしまって見えない。焦るディオメデスの腕を、相手はさらに強く引いた。
「リィウスはウリュクセスが守りますよ。商人ですからね、金になるものは粗末にしません。抜け目のない男ですから、すぐに逃げる算段をつけますよ。むしろ、あなたの方が危ない。あいつらは、ここにいる者が皆、敵だと思い込んでいるんですよ。偉大なローマを堕落させ、破滅にみちびくおぞましい存在だと信じ込んでいるんだ。ほら、こっちへ、あそこに隠れる場所があります」
「え? お、おい!」
カニディアに腕をつかまれたまま、ディオメデスは広間を出て、廊下を曲がってすぐのところにある小部屋に連れていかれた。
小さな物置小屋らしく、普段つかわない什器などを片付けておく場所のようだ。
「い、いったい何が起こったんだ?」
「暗殺ですよ。彼らはローマの改革をのぞんでいる正義漢のやからなんです。自分たちがローマを変えるんだと思い上がっている愚かな奴らだ。一人の為政者を殺したところで、なにが変わるというんでしょうね。どのみちあらたな権力者が次の世界を我が物顔にして、またあらたな苦労を呼ぶだけでしょうに」
「あ、あの男は、そんなに大物なのか?」
ただの裕福な老人のようにしか見えなかったが、元老院の有力人物なのだろうか。
カニディアが眉を丸めて、次に笑みを見せた。
「気づかなかったのですか? あの年寄りが皇帝なのですよ」
「なんだって!」
ディオメデスは叫んでしまった。
「こ、皇帝は離島で休養中なのでは……?」
「たまにお忍びで帰ってきては、こういった場所で楽しんだりするんですよ。知っていましたか? 皇帝の〝稚魚〟を手をつくして集めて島へ送りこむのは、ウリュクセスの仕事のひとつなんですよ」
稚魚というのは、離島の宮殿で、皇帝の性の相手を勤める幼い愛人たちである。年端もいかない子どもを、己の性欲解消の道具にしているという悪い噂が皇帝にはつきまとっている。
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