燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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「うっ、ああ、いい! いいよ、兄さん!」
 やがて、獣じみた叫び声に、落ちた心が浮上してくる。
(夢ではなかったのだ)
 すさまじい圧迫感が、その想いを実感させる。
「すごい。いい。こんな、こんな……初めてだ」
 リィウスの耳に、聞き慣れた声が遠慮なく響いてくる。
「兄さんも、ほら、僕に合わせてよ」
 リィウスは嗚咽した。嗚咽しながら、首を横に振る。それぐらいしか反抗を示す方法がなかったのだ。
 身体も心もこわれていく。心身ともにすべてが崩壊していくなか、ひとつの考えが浮かんでくる。
 この痛みと屈辱の宴が果てたとき……、もはや自分は生きてはいないだろう。そんな気がする。
 そんなリィウスの想いに気づいたのか、気づいていないのか、
「僕に合わせてよ!」
 狂乱めいた声が背後から響いてくる。
「ああっ!」
 四肢の痛みを気遣うことなく、背後のナルキッソスが欲望をぶつけてきた。
 逃げることもできずリィウスはすべてを受けとめるしかない。
 終われば……、本当にすべてが終わる。
 リィウスには、もはやこの先生きていく理由がなかった。
 
「駄目だよ、死んで逃げようなんて、許さないからね」
 朦朧としてきた意識は、そんな声をつかんでいた。
「ううっ、いい! 兄さん、もっと締めて」
「おまえは、狂っている……」
 背後の圧力はすこしも弱まらない。
「そうだよ。兄さん、僕は、ずっと狂っているんだよ。兄さんの弟になったときから、いや、この世に生まれ落ちたときからね。だから、僕の母は僕の首を絞めて殺そうとしたんだ」
 その言葉は、苦しい体勢であってもリィウスに息を呑ませた。
「な、なにを言っているんだ?」 
 リィウスの頭に、おとなしくおだやかな義母ポルキアのつつましげな顔が浮かんで消えた。
「兄さん、本当に何も知らないんだね……」
 背から伸びてきたナルキッソスの細い腕がリィウスの肩を抱きしめた。

 
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