燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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(まさか……?)
 その人影は、少しずつ近づいてきた。それでも、まさか、とリィウスは往生際おうじょうぎわ悪く思っていた。
 だが、もう間違いなかった。やや巻き毛の黄金の髪、夏の盛りの緑葉のようだった碧の瞳。まごうことなき義弟のナルキッソスだ。
 リィウスは悲鳴をあげそうになった。いや、あげていたかもしれない。
 血こそつながらないが、同じ屋敷のなかで育った、今やリィウスのゆいいつの家族であり、この苦悶に耐えてなお生きているたったひとつの理由である、愛してやまない弟のナルキッソスが、自分を見ているのだ。
 ほぼ全裸に剝かれ、男の背に馬乗りになって世にも浅ましい行為をさらしている自分を、見ている。
 リィウスは恐怖と羞恥に気を失いそうになった。ほとんど失う寸前だった。
(ああ、駄目だ。もう、駄目だ!)
 繊弱な身体に見えて、鋼の心を秘めていたリィウスだったが、このときは本気で死を選んだ方がましだと思った。
 だが、リィウスが無意識に、突発的に舌を噛みそうになった刹那、先に異変を見せたのはナルキッソスの方だった。
「ふふふふふふ。ははは、ははははははは!」
 ナルキッソスは、のけぞって笑った。
 白いトュニカの袖から見える手は、ひどく細い。
 ナルキッソスは、まるで夢のなかをさまよう人のように、ふらふらとリィウスに近づいてきた。
「はっ、ああっ……」
 ウリュクセスが指図したのか、下になっているトュラクスが背をひねり、胴を上下に揺らしたせいで、たまらない刺激と官能の波がリィウスを襲う。
 こんなときだというのに、堪えきれないリィウスは溜息を吐いていた。
「うん……んん」
 思わず目をつぶり、必死に波にさらわれまいと踏ん張ってはみたが、それはいっそう濃密な色気となって白い肌から滲みだし、客たちをますます挑発する。
「ふふふふふふ。ははははは、あはははは」
 ナルキッソスの様子は普通ではない。おぼろな意識でも、リィウスはそのことを察した。
「ナ、ナルキッソス、見てはいけない。わ、私のこんな姿……見てはいけない」
「どうして、兄さん? どうして、僕が見てはいけないのさ? こんな大勢の人に見せつけているくせにさ」
 荒々しい言葉は、兄のこんなおぞましい姿を見たせいだろう、とリィウスは息を切らしながらも推察すいさつしていた。
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