311 / 360
八
しおりを挟む
(まさか……?)
その人影は、少しずつ近づいてきた。それでも、まさか、とリィウスは往生際悪く思っていた。
だが、もう間違いなかった。やや巻き毛の黄金の髪、夏の盛りの緑葉のようだった碧の瞳。まごうことなき義弟のナルキッソスだ。
リィウスは悲鳴をあげそうになった。いや、あげていたかもしれない。
血こそつながらないが、同じ屋敷のなかで育った、今やリィウスのゆいいつの家族であり、この苦悶に耐えてなお生きているたったひとつの理由である、愛してやまない弟のナルキッソスが、自分を見ているのだ。
ほぼ全裸に剝かれ、男の背に馬乗りになって世にも浅ましい行為をさらしている自分を、見ている。
リィウスは恐怖と羞恥に気を失いそうになった。ほとんど失う寸前だった。
(ああ、駄目だ。もう、駄目だ!)
繊弱な身体に見えて、鋼の心を秘めていたリィウスだったが、このときは本気で死を選んだ方がましだと思った。
だが、リィウスが無意識に、突発的に舌を噛みそうになった刹那、先に異変を見せたのはナルキッソスの方だった。
「ふふふふふふ。ははは、ははははははは!」
ナルキッソスは、のけぞって笑った。
白いトュニカの袖から見える手は、ひどく細い。
ナルキッソスは、まるで夢のなかをさまよう人のように、ふらふらとリィウスに近づいてきた。
「はっ、ああっ……」
ウリュクセスが指図したのか、下になっているトュラクスが背をひねり、胴を上下に揺らしたせいで、たまらない刺激と官能の波がリィウスを襲う。
こんなときだというのに、堪えきれないリィウスは溜息を吐いていた。
「うん……んん」
思わず目をつぶり、必死に波にさらわれまいと踏ん張ってはみたが、それはいっそう濃密な色気となって白い肌から滲みだし、客たちをますます挑発する。
「ふふふふふふ。ははははは、あはははは」
ナルキッソスの様子は普通ではない。おぼろな意識でも、リィウスはそのことを察した。
「ナ、ナルキッソス、見てはいけない。わ、私のこんな姿……見てはいけない」
「どうして、兄さん? どうして、僕が見てはいけないのさ? こんな大勢の人に見せつけているくせにさ」
荒々しい言葉は、兄のこんなおぞましい姿を見たせいだろう、とリィウスは息を切らしながらも推察していた。
その人影は、少しずつ近づいてきた。それでも、まさか、とリィウスは往生際悪く思っていた。
だが、もう間違いなかった。やや巻き毛の黄金の髪、夏の盛りの緑葉のようだった碧の瞳。まごうことなき義弟のナルキッソスだ。
リィウスは悲鳴をあげそうになった。いや、あげていたかもしれない。
血こそつながらないが、同じ屋敷のなかで育った、今やリィウスのゆいいつの家族であり、この苦悶に耐えてなお生きているたったひとつの理由である、愛してやまない弟のナルキッソスが、自分を見ているのだ。
ほぼ全裸に剝かれ、男の背に馬乗りになって世にも浅ましい行為をさらしている自分を、見ている。
リィウスは恐怖と羞恥に気を失いそうになった。ほとんど失う寸前だった。
(ああ、駄目だ。もう、駄目だ!)
繊弱な身体に見えて、鋼の心を秘めていたリィウスだったが、このときは本気で死を選んだ方がましだと思った。
だが、リィウスが無意識に、突発的に舌を噛みそうになった刹那、先に異変を見せたのはナルキッソスの方だった。
「ふふふふふふ。ははは、ははははははは!」
ナルキッソスは、のけぞって笑った。
白いトュニカの袖から見える手は、ひどく細い。
ナルキッソスは、まるで夢のなかをさまよう人のように、ふらふらとリィウスに近づいてきた。
「はっ、ああっ……」
ウリュクセスが指図したのか、下になっているトュラクスが背をひねり、胴を上下に揺らしたせいで、たまらない刺激と官能の波がリィウスを襲う。
こんなときだというのに、堪えきれないリィウスは溜息を吐いていた。
「うん……んん」
思わず目をつぶり、必死に波にさらわれまいと踏ん張ってはみたが、それはいっそう濃密な色気となって白い肌から滲みだし、客たちをますます挑発する。
「ふふふふふふ。ははははは、あはははは」
ナルキッソスの様子は普通ではない。おぼろな意識でも、リィウスはそのことを察した。
「ナ、ナルキッソス、見てはいけない。わ、私のこんな姿……見てはいけない」
「どうして、兄さん? どうして、僕が見てはいけないのさ? こんな大勢の人に見せつけているくせにさ」
荒々しい言葉は、兄のこんなおぞましい姿を見たせいだろう、とリィウスは息を切らしながらも推察していた。
0
お気に入りに追加
162
あなたにおすすめの小説



どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる