308 / 360
五
しおりを挟む
「ナルキッソス様、どうしたのですか? 落ち着いてください」
さすがにあわてたアンキセウスが、少年の細い肩をおさえこむようにして抱きすくめた。
(おや……)
アンキセウスは眉をかすかにしかめていた。また、妙な違和感が背に走る。
(なんだろう?)
ナルキッソスの肩をもう一度おさえこみ、違和感の正体を探ろうとしてみた。
アンキセウスが戸惑っていると、あたりにさざ波が立つような気配がした。
「おまえ……ナルキッソスなの? リィウスの弟だというのは、おまえなの?」
声の主を振り向いてみると、そこには、顔をベールで覆った女がいた。だが、顔半分を薄布で隠してはいても、美しいと人に思わせる女である。
「おまえ……どうして?」
女の瑠璃色の瞳がふしぎなものを見るように張りつめている。動揺しているようだ。
腕におさえこんだナルキッソスと、突然声をかけてきた女性を見比べ、アンキセウスも動揺した。ナルキッソスがひどく興奮しているのが伝わってくる。
「あはははははは! はははは! びっくりしているのは僕の方だよ。おまえこそ、ここで何をしているんだよ、マルキア?」
女の名前はマルキアというらしい。だが、その名がナルキッソスの唇からもれた瞬間、女の目つきが険しくなった。
「金持ちの後妻におさまって、悠々自適の日々をおくっているんじゃなかったのかい? それなのに、ここでまた昔の商売に手を出しているのか? また売春婦に戻ったというわけかい?」
二人が知り合いだったことに気づいたアンキセウスは、ややたじろいだ。ナルキッソスの交友関係は熟知しているつもりだったが、これまでにマルキアという名はあまり聞いたことがない。
ひどく毒を込めて投げつけられたナルキッソスの言葉に、当のマルキアは冷然と返した。
「そういうおまえは、ここで何をしているの? おまえこそまた男娼稼業に戻ったというわけ?」
「まあね」
悪びれもせずナルキッソスは答える。その目も、顔も、敵意と挑戦に燃えている。この二人の関係はどういうものなのだろう。まちがっても良好とはいえない。
さすがにあわてたアンキセウスが、少年の細い肩をおさえこむようにして抱きすくめた。
(おや……)
アンキセウスは眉をかすかにしかめていた。また、妙な違和感が背に走る。
(なんだろう?)
ナルキッソスの肩をもう一度おさえこみ、違和感の正体を探ろうとしてみた。
アンキセウスが戸惑っていると、あたりにさざ波が立つような気配がした。
「おまえ……ナルキッソスなの? リィウスの弟だというのは、おまえなの?」
声の主を振り向いてみると、そこには、顔をベールで覆った女がいた。だが、顔半分を薄布で隠してはいても、美しいと人に思わせる女である。
「おまえ……どうして?」
女の瑠璃色の瞳がふしぎなものを見るように張りつめている。動揺しているようだ。
腕におさえこんだナルキッソスと、突然声をかけてきた女性を見比べ、アンキセウスも動揺した。ナルキッソスがひどく興奮しているのが伝わってくる。
「あはははははは! はははは! びっくりしているのは僕の方だよ。おまえこそ、ここで何をしているんだよ、マルキア?」
女の名前はマルキアというらしい。だが、その名がナルキッソスの唇からもれた瞬間、女の目つきが険しくなった。
「金持ちの後妻におさまって、悠々自適の日々をおくっているんじゃなかったのかい? それなのに、ここでまた昔の商売に手を出しているのか? また売春婦に戻ったというわけかい?」
二人が知り合いだったことに気づいたアンキセウスは、ややたじろいだ。ナルキッソスの交友関係は熟知しているつもりだったが、これまでにマルキアという名はあまり聞いたことがない。
ひどく毒を込めて投げつけられたナルキッソスの言葉に、当のマルキアは冷然と返した。
「そういうおまえは、ここで何をしているの? おまえこそまた男娼稼業に戻ったというわけ?」
「まあね」
悪びれもせずナルキッソスは答える。その目も、顔も、敵意と挑戦に燃えている。この二人の関係はどういうものなのだろう。まちがっても良好とはいえない。
0
お気に入りに追加
162
あなたにおすすめの小説



どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる