燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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「言ってもいいぞ。俺も、おまえがどんなふうに喘いだか、……女のように感じたか、ウリュクセス様に報告しないとな」
「ううっ……、ひ、卑怯だぞ!」
「おお、そうだ。俺は卑怯者なんでな」
 マヌグスは笑った。愚かなトュラクス。この世には、卑怯だ、臆病だとののしられても、なんとも思わぬ男もいることを知らないのだろうか。
 軍隊を脱走したときから、そう後ろ指さされることは覚悟していた。
 マヌグスは勿論、知っている。ウリュクセスだとて、本当は自分のような人間を軽蔑しているのだ。軍隊から逃げ出し、それでも力は一応あり、通常の召使よりは武芸や荒事をこなすので、便利な道具として雇っている私兵など、本音では奴隷や、解放奴隷以下だとみなしていることは、自分を見る冷たい青白い目が伝えている。いや、ウリュクセスはまだ軽蔑しているだけましだろう。
 エリニュスなどは、自分を人間とも思っていない。自分のみならず、使用人や奴隷は、その屋敷に飼われている犬か馬のようにしか彼女は思っていない。そういう人種で、そんな人種はこの時代には珍しくもない。むしろそれが普通なのだ。だから、ああ言われても仕方ないと思っている。
(面白かったわ。見た、あのトュラクスの悔しそうな惨めな顔。さぞ無念でしょうね、あんな下等な男に一流の戦士であった自分が犯されたのだから。もう、二度と男としてとしての誇りは取り戻せないでしょうよ)
 エリニュスはひたすらトュラクスを辱しめるためだけに、自分に彼を強姦させたのだ。自分はトュラクスをいたぶるための性具なのだと自覚した。
(今更、そんなことを気にして何になる?)
 マヌグスは下腹に力を込めた。
「うぅ……」
 苦しげな喘ぎ声はトュラクスのものでなく、自分の発したものだと気づいて頭を振った。今は、快楽だけを追い求めたい。せっかく腕のなかに、己の下に、光り輝くような肉体を持った男がいるのだから。
 トュラクスに四つん這いを強い、情を発散するためにつとめた。トュラクスは四つん這いで両腕を背後でしばられているために、じかに床石に顔をつけるという苦しい態勢となり、苦痛を告げる乱れた呼吸の音がひびく。
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