燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 また顔を真っ赤にして、背後のリィウスや自分自身を追い詰める行為を必死にくりかえてしいるトュラクスの顔は、これほど不様な真似を強いられていても、やはり男らしく凛々しく見えるのだからいっそ不思議だ。
「トュラクス、今日はおまえが主導権を取るのよ」
 にんまりと笑って、エリニュスは、トュラクスを発奮させるための決まり文句を放つ。
 うまくやれなかったときは、ミュラをここへ連れて来るからね。
「ううう……」
 トュラクスの唇に血が滲むのが知れる。だが、次の瞬間、リィウスが悲鳴をあげた。
「あっ、や、やめ……」
 トュラクスはエリニュスの命に逆らうことはできないのだ。わかってはいても、リィウスは押し付けられた切なさに全身をこわばらせ、どうにか少しでも逃れようと足を震わせる。
 人一倍誇りたかく、ともに麗質にめぐまれたふたりの不幸な男たちが、たがいに身をよじり、押しあい、否応なしに屈辱を押しつけあうすがたは悲哀のひとことである。
 どちらも初対面のときからたがいの身の上に同情し、好感を持ちあってはいても、この地獄から逃れることはかなわず、おたがいに傷つけあうような苦しい行為をしないといけないのだ。ふたりとも首を横に振り、頬をこらえきれぬ涙で濡らしていた。胸は悔しさに裂けそうだというのに、下肢は若さの熱情に弾けそうなことは誰の目にも一目瞭然で、兵士たちの、どちらが先にいくか賭けるか、という卑しい笑い声にいっそう昂ぶってしまう。
 ウリュクセスもカニディアも、エリニュスも魅入られたように、二人の浅ましく、異常で、どこか痛ましく、それでいてやはり壮絶に美しいと思わせる姿から目をはなせないでいる。
「はぁっ、ああっ、あー」
 とうとうリィウスが、いや、いや、と首を横に振りながら泣きじゃくり、身もだえした。
 剝きだしの身体は隠すものもなく、彼のいじらしい昂ぶりがすべて丸見えだ。下卑た兵が、それを指差し笑う。その嘲笑がまたリィウスの被虐の官能を刺激することになり、頬が緋色に燃える。
「あら、リィウスの方が先に降参するみたいね。やっぱり男娼だけあって感度がいいようね。ほほほほ」
 エリニュスの嘲弄にリィウスは沸騰しそうになった。そしてまた恥辱の痛みが、身体を燃えあがらせるのだ。そんな心と体に、いつの間にかなってしまった己が一番恨めしかった。

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