燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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「ううぅ、よ、止せ! はなせ!」
「うるせぇな、さっさと言われたとおりにしろ。もたもたするなら、これを……、ほら、」
 柄の悪そうな髭面の中年男がそう言うや、背後のトュラクスが身をよじったのがリィウスにも知れた。
「ううう!」 
 傷ついた獣のような唸り声に男が一瞬ひるんだ顔になると、エリニュスの鞭のような声がひびく。
「なにをもたもたしているの、マヌグス? はやく、おし」
「へ、へぇ、エリニュス様」
「うっ、ううううう!」
「おもしろいな、これ。ほら、どうだ」
 ざらざらと不快な声が響く。マヌグスと呼ばれた男はあまり質が良くないらしく、ただ単にエリニュスの命令にしたがっているのではなく、あきらかにトュラクスをいたぶることを楽しんでいる。
「さぁ、これを、こっちのお綺麗な坊やにも入れてやるかなら。二人でたがいに楽しむといい」
 卑猥な笑い声が響く。
「あ、よ、よせ!」
 怖れた感触が後ろに迫ってきて、リィウスは無意識で足を動かして逃れようとしたが、かなうわけもなく、男たちによっておさえつけられ、信じられないことに、エリニュスののぞむかたちでトュラクスを受け入れる羽目になった。
 いや、厳密にいえば、トュラクスを受け入れるのではなく、トュラクスの身体に装着されてしまった象牙の道具を受け入れるという、とんでもなく屈辱的な行為を受け入れざるを得なかったのだ。
「はぁ……! あっ、そ、そんな! ああ! ああ! いや、いやだー!」
 あまりのことにリィウスは悲鳴をあげた。
「おい、坊や、動くんじゃねぇぞ。トュラクス、おまえもだ。動いたらお互い怪我するかもしれねぇぞ」
 互いに背をむけあっているうえに、互いに嫌がっているので、なかなか事はエリニュスの思惑どおりに進まない。
「身の丈が合ってないからな。なにか、踏み台になるもはないか?」
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