燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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「仕方ないわよ、私はエリニュス、復讐の女神なんですもの」
 うそぶく彼女に、カニディアは微苦笑を向ける。
「こういうかたちで、あなたは男たちに復讐をしたいのだね」
「別に、そんなつもりじゃないわ」
 いくぶん、むすっとした顔を見せてから、エリニュスは声高く告げる。
「その、邪魔な布きれを取りなさい!」
 命じられたカニディアは、トュラクスの前を覆っている布を剥ぎ取った。
「う……!」
 文字どおり一糸まとわぬ姿にされたトュラクスは、眉をゆがめる。
「くくくくく。こんな逞しい美丈夫が、乙女のように羞恥に頬を染めているのは、なんとも絵になるねぇ」
 ウリュクセスが満足そうに、いやらしく笑うのを見て、リィウスは背に怖気がはしった。
 この男は、誇り高く強く勇ましい人間を、とことん貶め、辱しめ、いじめぬくことに喜びを見い出しているのだ。
「もっともですね」
 カニディアがおもねるように言いながら、右手でトュラクスの固そうな尻を撫でた。
「本当に素晴らしい身体だな。剣闘士のなかには巨人のようにでかい男や、異常に筋肉が発達している男もいるが、ああなったらもう獣とおなじだ。いくら強くはあっても、美しいとは思えない。それに比べて、トュラクスの身体は素晴らしい……」
 事実だ。もともとが細身なのか、筋肉は充分ついているが、けっして威圧的ではなく、野蛮にも粗野にも見えない。
 広い肩、張りつめた胸、ひきしまった胴、弾けるような臀部と、すべてが理想的に美しく、均衡を満たしており、高窓から差し込むほのかな陽光を受けて、全身蜂蜜をしたたらせたように、うっすら飴色にきらめいている。これほど過酷な状況に置かれていても、トュラクスの肉体からほとぼしるような、若さの輝きと、青春の情熱は衰えてはおらず、カニディアを感嘆させた。
「ローマ一、いや世界一美しい男の身体だな。これほど素晴らしい身体は見たことがない」
 カニディアがうっとりとした顔で、見惚れるようにトュラクスの背を舐めるように見つめる。
「うっ、うううっ」
 ほのかに薔薇の香が辺りにたちこめ、トュラクスの苦しげなうめきが響くのを、リィウスはなす術もなく、呆然と成り行きを見守るしかない。
「ああ、熱いな。いい具合になってきた。そろそろいいですよ」
「ふん。待たせるわね」
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