燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

文字の大きさ
上 下
272 / 360

しおりを挟む
 リィウスはその盆の上に乗っているものを見て悲鳴をあげそうになった。
 柘榴荘でも見たことがある。象牙の道具だ。
 だが、その道具は、タルペイアがリィウスに使ったものとは、別の用途のために造られたもののようだ。
 双頭の蛇のように、両方に道具の先が伸びているのだ。黒いなめし皮の帯のようなものが着けられており、だいたい見ただけで使い方がわかるものだ。
 だが、それは……、リィウスが話に聞いたものでは……。リィウスは記憶を呼びもどしてみた。
 柘榴荘で、客の求めに応じて娼婦たちが似た道具を使って遊んでいるのだとタルペイアから聞いたことはあるが……。
「面白いでしょう? 本当なら女同士がたわむれるときに使うものなのだけれど。ふふふふ……これをね、おまえたちに使わせてやるわ」
 一瞬、リィウスは意味がわからなかった。が、次の瞬間、エリニュスの意図することを悟って――柘榴荘で過ごした日々は、彼を無垢なままにはさせてくれなかったのだ――、耳たぶまで熱を感じた。
「な……、そんな!」
「ほほほほほ。どうしたのよ、そんなに顔を赤くして。判るのでしょう? これの使い方が?」
 エリニュスは淫らな道具を平然と手にし、もてあそぶ。
「さぁ、二人ともこっちへ来て立つのよ。トュラクス、何をしているの? さっさと立つのよ」
 トュラクスは座ったまま女を睨みつけた。
「なによ、その顔は?」
 エリニュスは怒気をあらわに、剣闘士を燃える瑠璃の瞳で睨みつけた。
「言いたいことがあるなら、お言い!」
「……呆れているのだ」
 こんな状況でもトュラクスの声は、聞く者を圧倒するような迫力と、ある種の威厳をふくんでいる。闘技場で幾度となく命のやりとりをしてきた男だけが持つ、胆力にあふれているのだ。手酷い辱しめも、辛い地下牢暮らしも、彼の鋼の心を打ち砕くことはできなかった。
「よくもまぁ、そこまで下種なことを考えつく女だな、と。いっそ、感心する。おまえは、元は巫女だろうに、どうやってそんな下劣なことを覚えてきたのだ?」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

熱のせい

yoyo
BL
体調不良で漏らしてしまう、サラリーマンカップルの話です。

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

処理中です...