燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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(普通ではないな。なにか、病を持っているのではないか?)
 文化の爛熟した時代であり、金持ちのなかには、過食や美食にふけって健康をそこなう者も多いが、メロペの年齢でこの姿は少し異様だ。
 なにかしら、二人から饐えたものを感じて、アウルスはぎこちなく身を退いた。
「では、また後で」
 そう言って、背を向けた瞬間、辺りが騒がしくなった。
「ムキウスの真似か? イクシオンの責めでも演じているのかな? 今夜の見せ物はおもしろそうだぞ」
 すでにかなり酔っているのか、ふらふらした足取りでメロペが人がたかっている広間へ向かう。ナルキッソスが後を追う。
 建物は、列柱式中庭の造りとなっており、そこからは庭がよく見える。なにやら余興がおこなわれているようで、客が集っている。
 つられるようにアウルスもまた興味を引かれ、メロペたちにつづいて客の群に向かって足を進めたとき、広間の端に当たるところ、ちょうど彼と向かい側になる辺りに、見慣れた人物の顔が見えた。
(ディオメデスだ。やはりあいつも来ていたのか)
 招待状を送ってよこしたのは、この屋敷の主か、もしくは、ディオメデスの隣にいる貴婦人か……。
 アウルスは棘の多い真紅の薔薇を見るような想いで、ディオメデスと並んでいる薄紫のヴェールの貴婦人を眺めた。
 その女が何者か、アウルスは気づいていた。マルキア。ディオメデスの不仲の義母である。 
 彼ら二人が互いにひどく嫌いあっていることは、二人を知る人間なら誰もが知っていることであり、それだけに、今宵二人が連れだっていることが奇妙で、なにやら物騒な気配がする。
 ディオメデスもアウルスに気づいたようで、目配せをおくってきた。アウルスも目で挨拶を返した。彼の側へ行くべきか。だが、マルキアの存在が、邪魔をしていた。
 この女からは、常に陰謀の匂いがする。招待状の件でも、得体の知れないことには彼女が絡んでいるような気にさせられてしまう。こんな女と同じ屋敷に住んでいるディオメデスが気の毒になるときもある。
(ああいう女を見ていれば、性格も歪むだろうな)
 自分だとて人のことは言えないが……、と苦笑した。
 とにかく今は関わらない方がいいとアウルスは踏んだ。
 そんなことを思っていると、今宵の見せ物にされた哀れな奴隷の悲鳴が聞こえてきた。
 足を進めると、全裸の男奴隷が大きな車輪に逆さにかかげられ、鞭打たれている光景が見える。集まった人々が、彼のあげる悲鳴を聞いて笑いだす。
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