燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 死骸を公共の墓地まで運ぶのも面倒なので、裏庭に埋めておいた。その仕事はアンキセウス一人でこなさなければならなかったので、すこし疲れた。
 そんなアンキセウスの事情など知りもしないナルキッソスは、相変わらず自分のことでいっぱいだ。
「だって、つまらないんだよ! 兄さんはどこへ行っちゃったんだよ?」
「俺が知るか。ディオメデスだとて知らないぐらいなんだからな」
「本当に? 知っていて隠しているんじゃない?」
 メロペが無造作に首を横に振る。ますます肥満してきており、でっぷりと大きくなった腹で衣がはち切れそうだ。寝椅子の上に起きあがるのも億劫そうで、この太り方も尋常ではない。
「いや、本当に知らないようだ。ディオメデス自身も必死にリィウスの行方を捜しているみたいだぞ」
「うう……。ああ、苛々する!」
「なんだ、まだ足りないのか?」
 ひっ、ひっ、ひっ、と好色そうにメロペが笑う。ひどく老けて見える。顔はぶよぶよとたるんでおり、目には若者らしい覇気というものがまったくなく、代わりに異常な欲望だけが強烈にたぎっている。
「足りない! なんとかしてよ!」
「道具で遊んでやろうか?」
「そんなんじゃ、どうにもならない」
 ナルキッソスが苦しそうに呻いたとき、廊下に呼び声が響いてきた。
「どなたか、おられませんか?」
 たしかにそんな言葉が聞こえてきた。
 出入りの商人が借金の催促に来たのかと思ったが、声は玄関から聞こえてきているようで、業者や商人ではない。いかに落ちぶれたとはいえ貴族の屋敷の正門を通って、表玄関から商人の使いが呼ぶことはない。
 この屋敷に借金取り以外だれが来るのか、アンキセウスは奇妙に思いながら廊下を進んで玄関へ向かった。

 しばしの問答の末に戻ってきたアンキセウスは、ナルキッソスにある宴への招待状が届けられたことを伝えた。
「おや、俺のところにも同じ文が来ていたぞ」
 メロペが目尻をあげて、興味深そうに羊皮紙に目を凝らす。死んだ魚の腹のように気味悪く見えるふくらんだ頬が、好奇心に震えている。
「おもしそろうだね。行ってみよう。今度の満月だ」
 ナルキッソスが久しぶりに碧の目をいきいきと輝かせた。
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