燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 どことなく言い訳めいた口調になっていることをリィウスは自覚した。心のどこかで、やはり自分のしたことを正当化したいのかもしれない。
(浅ましい……)
 トュラクスの同情を引きたいのだろうか。自問して、己を恥じた。
「そうか。……俺と一緒だな。俺も、恋人の命を守ろうとして、捕らわれてこのざまだ。奴らには逆らえず、あんな不様な真似をさらしている。無敵と称えられ、ローマ最高の剣闘士と、人からは言われ、自分でもそう自惚うぬぼれていたこの俺がだ。笑ってくれ」
「そんな……!」 
 激しく首を横に振って、トュラクスにしがみつよくようにしてリィウスは言いつのった。
「ぶ、不様などと思うものか! おまえはやはりローマ最高の戦士だ。愛する者を守るために命を懸けて戦ったのだから。わ、私が恋人ならきっとおまえを誇りに思う」
 ふっ……。トュラクスが苦く笑った。諦めと悲しみをふくんで、それでいて決して陰気にはならずに。リィウスはその笑いを眩しく感じる。
 彼がかすかに歪めた眉間には傷が見える。試合で受けた傷なのか、エリニュスの罠に落ちたときに受けた傷なのか。リィウスは、その傷に接吻したい情動にかられ、動揺した。
(私は、なにを……馬鹿な)
 頬が熱くなる。 
 これは、恋情ではない。好意なのだ。内心で自分に言い聞かせた。
(そうだ。私は、敗れても決して敗れることのないこの戦士に、好意と敬意を持っているのだ……)
 思えば、リィウスの人生にはあまり愛情や尊敬を持てる人物との出会いがなかった。
 亡父には愛と哀れみはあっても尊敬はもてなかかったし、学生時代の師は、金持ちの子弟からの賄賂を当てにするような人物が多く尊敬することはできず、ごくわずかな友人と呼べる学友たちとも、それほど親密な付きあいはしなかった。
 いつも心に鎧をまとい、誰ともふかく交わることもなく、恋情はもちろん、友情であれ好意であれ、他者に激しい想いを懸けることなく生きてきた。
 そんなふうに自らの内にこもり、閉塞的な世界で生きてきたからこそ、同じ家のなかで共に過ごしたナルキッソスだけには激しい愛着を持ったのかもしれない。

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