燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

文字の大きさ
上 下
250 / 360

地獄の夜明け 一

しおりを挟む
 リィウスは観客たちの足が見えてくると、恐怖に気を失いそうになった。
(ああ……)
 これほどにまで侮辱された自分は、二度と陽のあたる世界を歩くことは出来ないだろうという絶望に押しつぶされそうになる。
 いっそ舌を噛んで果ててしまおうか、と禁をやぶって自害の欲求に身を焼かれたとき、肌の下の男が身体を揺さぶった。どこか、背に負った子どもを宥めるような仕草だ。
 リィウスは本当に子どもにかえったように、男の逞しい背に顔を伏せた。
 男の肌のあたたかさに、客たちの粘つく視線も、悪意を込めた嘲笑も、一瞬、忘れることができた。
 残酷な地獄で身を焼かれながらも、リィウスはトュラクスの身体から伝わる熱に、唯一の慰めを得ていた。涙が、トュラクスの背に伝う。



「うう……」
 あれからどれぐらい時がたったか。陽は昇り、辺りはいつの間にか健やかな陽光にあふれていた。昨夜のことが、すべて悪い夢だったような気がするが、身体の節々ふしぶしが痛み、そんな儚い願いを打ちくだく。
「水飲む?」
 最初に視界に入ったのはタルペイアの黒目だった。
「ここは……?」
 周りを見渡して、すぐに柘榴荘ではないことに気づいた。見知らぬ室の寝台の上に寝かされていたらしい。
「ウリュクセスの屋敷の小部屋よ」
 手狭でいたって質素な室礼しつらいであることからして、とうてい客室とは呼べないが、それでも掃除が行き届いており、窓もあり、日当たりは良さそうだ。上流の召使の室というところか。
「……私はどうして、ここに?」
 タルペイアが眉をしかめた。
「覚えていない? おまえはトュラクスの背で失神してしまったのよ。ウリュクセスが怒っていたわ。あのあと、まだまだ見世物を続けるつもりだったのに」
 あのあと、さらに宴は盛り上がり、客たちが入り乱れての乱交が行われたという。
「私もベレニケも客の相手で大変だったのよ」
 言われてみれば、タルペイアも目の下がすこし曇っているようで、疲れが見える。ベレニケは隣の室で休んでいるという。
「……あの男は……?」
 リィウスは気になることを口に出していた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

熱のせい

yoyo
BL
体調不良で漏らしてしまう、サラリーマンカップルの話です。

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

処理中です...