燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 客が驚いて息を飲む気配が伝わってくる。
 疲労していた身体のどこにこれほどの激しさが残っていたのか、リィウス自身驚いた。
「まぁ!」
 拒絶された悔しさにエリニュスの瑠璃の目が凍る。
「そうだったわね。おまえは、女の私に接吻されるより、トュラクスに突かれる方が好きなのね。それは悪かったわ」
 エリニュスが細い手でリィウスの右頬を撫でた。
 やんわりと頬を、首を、撫でおろす。リィウスは背に緊張が走るのを自覚した。
 にんまりと魔物めいた笑みを浮かべたあと、エリニュスの目が吊り上がる。
 刹那、リィウスは左の頬に激しい痛みを感じた。
「うっ!」
 咄嗟のことでよけることも、声を殺すこともできず、女の打擲に打撃を受けたことを隠せなかった自分自身をリィウスは恨んだ。
「それほどトュラクスが、いいえ、この馬が好きなら、もっと遊ばせてやるわ。綱をほどくとくのよ!」
 命じられた私兵が寄ってきて、リィウスの腕を戒めていた綱を手際よくほどいていく。
「あっ……」
 上半身が一瞬楽になったが、下半身はトュラクスをまたいだままなので、ひどく不安定だった。あわて、うろたえるリィウスの腕を、エリニュスがおもしろそうにつかんだ。
「逃れられないように、リィウスの身体をトュラクスに縛りつけるのよ」
「え? あ、よ、よせ!」
 またたく間に細目の縄が用意され、呆然としているリィウスの腕をもう一人の私兵が捕らえる。
「な、なにをする!」
「もっとお馬乗りを楽しませてあげるのよ。ほら、さっささと縛りあげるのよ」
「あ、よ、よせ! 触るな!」
 身体の敏感な場所には、まだ道具が入っているのだ。リィウスは身体を押され、泣きそうになった。
「その道具では、ちょっと難しいから出してやるわ」
 女主の目配せを受けた私兵は、意外にも丁寧な手つきでリィウスの腰をささえる。
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