燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 リィウスは恥辱に震えながら、やっと自由にさせてくれたエリニュスを睨むこともできず、とうとう、おのれを弾けさせた。
「ううーっ、あっ、あうっ!」
 耐えた時間の長さと、屈辱の痛みの深さに比例するような、すさまじい快楽がリィウスを襲う。
(あっ、こ、こんな……こんな、すごい……)
 全身にいかづちが走ったような錯覚に、リィウスは五体が砕ける予想をし、怯えた。
(ああっ、ああっ、あああっ!)
 とめどなく涙が頬を伝うが、認めないわけにはいかない。そこには苦痛をしのぐ、得体の知れない甘美さがまじっていた。
(ああ、もう駄目……だ)
 女が言うような言葉が頭のなかで響く。気づいてさらに恥じ入り、身をおののかせた。
 トュラクスをまたぐ格好で、あられもなく開かせられている両足が、ぶるぶると震える。
 頭上で縛り上げられている手も、胸も胴も、嵐の夜に咲く白薔薇のようにいたましげに揺れる。リィウスの肉体のみならず、魂が、おびえて震えているようだ。
 そんなリィウスのいじらしい様子を見て、エリニュスはまた笑った。
「ほほほほほほ。すさまじい格好ね。良かったわよ。ご覧、客たちも大喜びよ」
 言われるまでもなく、観客たちの熱をふくんだ視線を感じて、リィウスはまた怯えた。 
 客のなかには、今宵の宴の見せ物となっている哀れな麗人が何者であるかにすでに気づいている者もいるだろう。けっしてリィウスの思い過ごしではなく、見たことのある顔もあった。父の知人の貴族だ。
 相手はリィウスと目が合うと、あわてて目を逸らしはしたが、この場を去ることはなく、最後まで欲望のこもった目でリィウスの痴態を見物していた。後にこの夜のことを誰かに漏らさないとは言えない。いや、きっと話すだろう。リィウスの名誉は地に墜ちていく。
「ああ、本当に可愛いわぁ」
 うっとりとしたように恍惚に濡れて光る目で、嬲るようにリィウスを見下ろしていたエリニュスは、身をかがめると、リィウスの唇に己の唇をかさねた。
「んっ……!」
 リィウスは不快感と嫌悪に、あらがって、身をよじり、女の手と唇をふりほどく。
 汚らわしい、という想いを隠すこともなく、唾棄だきしてみせた。
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