燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 今のリィウスは下の男の熱が欲しかった。
(ああ、もっと燃えて、私を燃やしてくれ!)
 今まで柘榴荘で味わった恥辱や悦楽をはるかに凌駕する刺激に、リィウスは半ば気が狂っていたのかもしれない。
(ああ、もっと、もっと強く動いてくれ! ああ、もう止まらないで……)
 哀願にも似た切望にトュラクスは応えてくれた……ようにリィウスは思った。
「はぁっ!」
 これでどうだ、といわんばかりにトュラクスが激しく動く。
 トュラクスの胴が、背が、尻が、波のようにうなり、ひねり、リィウスを翻弄する。
「はぁっ! ああああっ! あああっ! ひっ……!」
 最後の声は悲痛そのものになっていた。待ち望んだ瞬間を、突然うばわれたのだ。
「駄目よ。まだ、駄目よ」
 女の顔をした悪魔が舌なめずりする。
 急所をおさえこまれ、リィウスは悲鳴をあげていた。
「おまえはそのまま動いているのよ!」
 無慈悲にもそうトュラクスに命じると、エリニュスは死刑囚に火あぶりを命じる獄吏のような顔と声をリィウスに向けた。
「遂きたい? 遂きたければこう言うがいいわ『トュラクス、おまえは最高の馬だ。もうおまえにしか乗りたくない』とね。ほほほほほほ」
「そ、そんな……!」
 あまりにひどい侮辱にリィウスはおののいたが、その間にも脚の下の肌の熱は激しく彼を責めたてる。
「ううう……」
「さぁ、言うのよ。言ってごらん。言わないとこのままよ」
「ああ……!」
 リィウスの白い肌が、熱をふくんでほんのり赤らんでみえる。
 その様子を凝視していたエリニュスの顔色が変わったことに、リィウスは気づかない。
「ふうん……」
 男にあるまじき色香をはなつリィウスの胸の突起の先に光る玉の汗を、エリニュスは指で突いた。
 エリニュスは不思議な物でも見るような顔をする。
 すぐに夜風に消えたうたかたの花に、さしもの鬼女も一瞬、気勢をそがれたようだ。
 だが、リィウスの壮絶な美しさに我を忘れたことを悔やむように、さらにエリニュスの顔には苛烈なものが走った。
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