燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 トュラクスは、どういう動きが、上になった人間に快をあたえるか、相当修練したようだ。いや、させられたのだろう。
「そうだ。もっと腰を動かせ。ただ動かすんじゃない。相手を喜ばせることを常に考えて、腰や尻をひねるんだ」
 ぺちぺち、と小馬鹿にしたように、ウリュクセスがトュラクスの臀部をたたく。
 トュラクスが屈辱に身体を焦がしていることが、リィウスにも伝わってくる。彼の心が触れ合っている肌から、リィウスのなかにも伝播してくるのだ。
「はっ、ああっ……」
 リィウスは切なく喘いだ。
 ウリュクセスがそれを見て満足そうに笑った。
「どうやら全部入ったようだね。これからもっと良くしてあげよう。ほれ!」
「うううううううっ……!」 
 リィウスの下から聞こえてきたのは、耐えきれない慟哭めいた、わめき声だった。猿ぐつわをとおして響くその凄絶な声は、リィウスの胸をかきむしる。
 トュラクスもまたいているのだ。
 女々しい、などとは死んでも思えない。魂をかきむしるような哀哭の声に、リィウスの身体も震える。痛ましさと、悲しさと、共感に。そして、罪悪感に身が縮む。自分の存在もトュラクスをおとしめることに加担しているのだ。
(あっ、ああ、う、動かないでくれ……!)  
 心の内で叫んではみても、ウリュクセスの絶え間ない叱責に、トュラクスは動かざるを得ない。
 世にも淫らに腰をひねり、背をゆらし、己にまたがる麗人に快楽をあたえることを強制されているのだ。
「すごい腰のひねりだな。妙な色気が匂ってきそうだ」
「筋肉もすごいわね」
「乗っている方もすさまじいな。みろ、あの肌の艶かしいこと。どんな高級遊女でも、あんな色香に満ちたのはいないぞ」
 下卑た批評が遠慮なく起こる。
「まだまだ遅いな、この馬は。ほら、走れ!」
 ウリュクセスが笑いながらトュラクスの尻を平手で討つ。
 全身を屈辱と羞恥に烈火のごとく燃やしながら、トュラクスは自棄やけになったようにその場で身体を上下に動かし、左右にひねり、リィウスに悲鳴をあげさせた。
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