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四
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次に聞こえたのは、サラミスの声だった。笑い声ではない。
「おお!」
男性客が目を見張る。観客たちまでが悲鳴のような声をあげた次の瞬間、骨が折れ、肉の裂けるような音が響きわたった。
「おお、やはり女イカロスは神の裁きを受けたようです!」
またもおどけた女の声が聞こえた瞬間、リィウスは気が狂いそうになった。あまりの怒りに目の前が真っ赤になった。
「サラミス!」
一番先に我にかえったのはタルペイアだった。さすがに彼女は主人としての立場や責任を思い出したのか、裾を乱して、サラミスが落ちた場所へと駆けていく。あわててリィウスも後を追った。
もしやまだ命があるのでは、と思ったが、それは儚い希望に過ぎなかった。
そこにあったのは、つぶれた肉の塊りである。衣は血に染まり、頭のあたりには血とは別に身体から出たなんらかの液体が散っている。あまりの無残さにリィウスは目を覆いそうになった。
「サラミス! ああ、……駄目だわ。死んでいるわ」
膝をついていたタルペイアが、諦めたように呟き立ち上がる。
「でも、苦しまずに逝けたのはまだ幸せだったかも……」
「幸せ……?」
聞こえた言葉が理解できず、リィウスはたしかめるように言っていた。
「そうよ。前の娼婦……いえ、男娼は、アッティスの真似をさせられて、客の前で去勢されたわ」
アッティスというのは、女神によって去勢された美しい若者だ。神話や伝説の逸話の場面を実際に娼婦や奴隷を使って演じさせるのがウリュクセスの好みであり、この宴の趣旨なのだろう。
見栄えの良いその若い男娼は、皆の前で裸に剝かれ、男根を切り落とされたのだという。一応は医者が呼ばれたが、手当の甲斐もなく、まる二日苦しみぬいて死んだと、タルペイアは淡々とした口調で説明した。
彼女はさすがに眉を寄せて、視線を遺体に向けたまま呟く。
「……苦しまなかっただけ、この子は幸せなのよ」
「どこがだ!」
「おお!」
男性客が目を見張る。観客たちまでが悲鳴のような声をあげた次の瞬間、骨が折れ、肉の裂けるような音が響きわたった。
「おお、やはり女イカロスは神の裁きを受けたようです!」
またもおどけた女の声が聞こえた瞬間、リィウスは気が狂いそうになった。あまりの怒りに目の前が真っ赤になった。
「サラミス!」
一番先に我にかえったのはタルペイアだった。さすがに彼女は主人としての立場や責任を思い出したのか、裾を乱して、サラミスが落ちた場所へと駆けていく。あわててリィウスも後を追った。
もしやまだ命があるのでは、と思ったが、それは儚い希望に過ぎなかった。
そこにあったのは、つぶれた肉の塊りである。衣は血に染まり、頭のあたりには血とは別に身体から出たなんらかの液体が散っている。あまりの無残さにリィウスは目を覆いそうになった。
「サラミス! ああ、……駄目だわ。死んでいるわ」
膝をついていたタルペイアが、諦めたように呟き立ち上がる。
「でも、苦しまずに逝けたのはまだ幸せだったかも……」
「幸せ……?」
聞こえた言葉が理解できず、リィウスはたしかめるように言っていた。
「そうよ。前の娼婦……いえ、男娼は、アッティスの真似をさせられて、客の前で去勢されたわ」
アッティスというのは、女神によって去勢された美しい若者だ。神話や伝説の逸話の場面を実際に娼婦や奴隷を使って演じさせるのがウリュクセスの好みであり、この宴の趣旨なのだろう。
見栄えの良いその若い男娼は、皆の前で裸に剝かれ、男根を切り落とされたのだという。一応は医者が呼ばれたが、手当の甲斐もなく、まる二日苦しみぬいて死んだと、タルペイアは淡々とした口調で説明した。
彼女はさすがに眉を寄せて、視線を遺体に向けたまま呟く。
「……苦しまなかっただけ、この子は幸せなのよ」
「どこがだ!」
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