燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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「……生んだの?」
 タルペイアの問いにサラミスは首をひねる。
「うーん、生んだというか、あるときお腹が割れそうに痛くなった、と思ったら生まれていたのよ。さすがに私もびっくりしたわ。晩生おくてな話だけれど、ああいうことすると子どもが出来るものだっていうことさえ知らなかったから、月のものが来なかったのも、せいぜい遅れているのかしらって思っていたの。誰もそんなこと教えてくれなかったし」
 馬車を曳く馬の蹄が地を蹴る音だけが響く。最初に口をひらいたのはベレニケだ。
「その子、どうしたの?」
「母さんがびっくりして、悲鳴をあげてね。それを聞きつけた家人がやってきて……そのときのことはよく覚えていないんだけれど、兄貴の一人が二人とも持って行ったわ」
「二人? 双子だったのか?」
 リィウスが問うと、サラミスは、うーん、と呟いて空を見つめた。
「らしいんだけれど、おぼろげにしか覚えていないの。なんだが、変な形をしていたんだって」
 変な形という言葉に気をひかれて、リィウスは言っていた。
「……つまり、奇形だったのか?」
 リィウスは背が寒くなった。血が濃いと病弱な子が産まれやすいと聞いたことがある。赤子の父親は、サラミスの実の父になる男だったのかもしれない。
「そうだったんじゃない? 兄貴が庭に埋めたみたい。どのみち、奇形の赤ん坊は生きていけないのだから恨むなよ、って言われたわ」
 生きることが過酷なこの時代、奇形児に対する偏見や差別はきびしかった。
 アウグストゥス法では、明らかな奇形児は出産時に処分されることが定められており、その方が子にとっても幸せだとみなされていた。運よく生き延びた奇形児もいたが、見世物にされたり、宴の場で慰みものにされるような野蛮で残酷な習慣がまかりとおっていた。
「……悲しくなかったのか?」
 訊くべきではない、と思っていたが、リィウスは訊いてしまった。
 またサラミスは首をひねる。
「わからないわ。ろくに顔を見る間もなく連れていかれたから。泣き声も聞こえなかったから、最初から死んでいたのかもしれない」
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