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二
しおりを挟むひどく疲れた気持ちで廊下を歩いていると、甲高い笑い声が響いてきた。
「や、やめてよ! リキィンナ!」
「いいじゃないのよぉ」
足音とともにリィウスにぶつかってきたのはコリンナだった。転びそうになった相手に、咄嗟にリィウスは腕を伸ばした。
「あ、ごめん」
コリンナの頬は上気している。あとから小走りにやってきたリキィンナは、リィウスの胸に怯えたようにしがみついているコリンナと、そのコリンナをかばうように抱きしめているリィウスを見て、のけぞって笑った。
「聞いた? 今度、ウリュクセスの屋敷に行くのでしょう?」
潤んだような黒目でリィウスを見つめる。この女は自分の魅力が目にあることを自覚しているようで、意識して相手の目を凝視する。普通の男だったら、心を吸いとられそうになっただろう。この女にとっては娼婦という職業は天職なのだ。
「……君もだろう?」
「ふふふ。まぁね。……あの男の宴は有名だそうよ。覚悟して行かないとね」
他人ごとのようにあっさり言い、リィウスにさらに流し目を向けてくる。
化粧をほどこした顔は美しく色っぽいが、倦んだ気配がただよってきてリィウスは落ち着かない。客に対してならともかく、男娼となった自分にまで秋波をおくってくるリキィンナという女がやや重たい。
「ねぇ、コリンナ、あとで私の部屋にいらっしゃいよ。美味しい菓子をあげるわ」
「い、いいよ」
コリンナは怯えた顔で首を横に振る。
「なんでよ? 最近すっかり来ないじゃないのよ?」
不満そうな顔をしながらも、リキィンナは本当に怒っているようではない。リィウスは二人を見比べて、ふと訝しんだ。
リキィンナは特に親切ではないが、そう性悪というわけではない。年下のコリンナを気にかけてやっているのかもしれないが、コリンナの顔色は暗い。
「しょうがないわね」
リィウスの背後にまわってリキィンナの誘いをことわりぬくコリンナに、リキィンナもあきらめたのか、背を向けた。
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