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七
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(今頃、リィウス様はどうしていらっしゃるだろう)
あなたが命をかけても守ろうとしたこの家は、滅びかけて、いやもはや滅んでいるのだ。ここにあるのは虚しい残骸だけだ、と伝えたい。
(そうだ。滅んだ家など、捨ててしまえばいい。柘榴荘を逃げだして、どこか遠い田舎で二人で静かに暮らせれば……)
そんな愚かで他愛もない夢を描いていると、物音がした。
「おい、いるのか?」
ずかずかと室内に入ってきたのはメロペだ。
ぷうん、と辺りに酒の匂いがただよう。さらに腐敗の色が室につよまるのを、アンキセウスは物悲しい想いで見ていた。
「なんだよメロペ、来たのかい?」
一瞬、ナルキッソスは驚いたが、にんまりとした笑みを見せた。
「呼んでも誰も出てこないから勝手に入ってきたぞ」
すでに迎えに出る召使もいない。貴族としての最低限の対面をつくろうことすら、この屋敷ではなされていない。
あらためてアンキセウスはうんざりとした気分で、客人を眺めた。
このメロペという男もかなり淪落の道をたどっている。
最近ますます太ってきたようで、でっぷりとした腹で衣がはち切れそうだ。ねっとりとしたような頬は死んだ魚の腹を思わせ、額には汗が浮いている。ここへ来るまでだけでも彼にはかなりの運動なのだろう。
「どうしていたんだ? 最近はどこのシマにも顔を見せていないようじゃないか?」
「ふん。どこで遊んでも、ありきたりで面白くないんだ」
恥じ入る素振りすら見せずに、ほとんど裸のままの格好で、ナルキッソスはメロペの首に手を伸ばすと、しなだれかかった。
ナルキッソスがメロペをどう思っているかは知らないが、まず恋愛感情はないだろう。以前、「あれは金づるだから」と笑っていたことがあった。実際、この窮迫している家にとって、メロペは手放せない。ナルキッソスは男娼として職業的信念にのっとって上客をもてなそうとしているのだ。
あなたが命をかけても守ろうとしたこの家は、滅びかけて、いやもはや滅んでいるのだ。ここにあるのは虚しい残骸だけだ、と伝えたい。
(そうだ。滅んだ家など、捨ててしまえばいい。柘榴荘を逃げだして、どこか遠い田舎で二人で静かに暮らせれば……)
そんな愚かで他愛もない夢を描いていると、物音がした。
「おい、いるのか?」
ずかずかと室内に入ってきたのはメロペだ。
ぷうん、と辺りに酒の匂いがただよう。さらに腐敗の色が室につよまるのを、アンキセウスは物悲しい想いで見ていた。
「なんだよメロペ、来たのかい?」
一瞬、ナルキッソスは驚いたが、にんまりとした笑みを見せた。
「呼んでも誰も出てこないから勝手に入ってきたぞ」
すでに迎えに出る召使もいない。貴族としての最低限の対面をつくろうことすら、この屋敷ではなされていない。
あらためてアンキセウスはうんざりとした気分で、客人を眺めた。
このメロペという男もかなり淪落の道をたどっている。
最近ますます太ってきたようで、でっぷりとした腹で衣がはち切れそうだ。ねっとりとしたような頬は死んだ魚の腹を思わせ、額には汗が浮いている。ここへ来るまでだけでも彼にはかなりの運動なのだろう。
「どうしていたんだ? 最近はどこのシマにも顔を見せていないようじゃないか?」
「ふん。どこで遊んでも、ありきたりで面白くないんだ」
恥じ入る素振りすら見せずに、ほとんど裸のままの格好で、ナルキッソスはメロペの首に手を伸ばすと、しなだれかかった。
ナルキッソスがメロペをどう思っているかは知らないが、まず恋愛感情はないだろう。以前、「あれは金づるだから」と笑っていたことがあった。実際、この窮迫している家にとって、メロペは手放せない。ナルキッソスは男娼として職業的信念にのっとって上客をもてなそうとしているのだ。
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