燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

文字の大きさ
上 下
171 / 360

しおりを挟む
 この返答は、ますますリィウスを怒らせた。
「不愉快な奴だな! 人が心配しているのに。何故また笑う」
「いやぁ……」
 ディオメデスはおもしろくてならない、というふうにまた笑った。リィウスの、「心配しているのに」という言葉が彼をひどく喜ばせたことにリィウスは気づけないでいた。
 笑い止まぬディオメデスに本気で腹を立てたリィウスは、思わずつかみかかってしまった。
「おい、こら……!」 抗議の声にも笑いがふくまれている。
「こら、止せ」
 両手を取られて、逆に相手のたくましい胸に引き寄せられてしまう。
 肌と肌とが触れ合い、熱が生じ、互いの肉の固さを感じあいながら、子どものように、じゃれあう仔犬たちのようにもつれあう。
 しばらく揉みあい、やがて、ディオメデスに抱き込まれるかたちでリィウスは降参した。どのみち力ではかなわないのだ。
「ああ、もう……」
 ひと息、天井をいろどる七色のモザイク模様に向けて吐きだしたあと、おもむろに、ためらいながらもリィウスは口をひらいた。やはり言わねばならない。
「なぁ……」
「なんだ?」
「……ここへはもう来ない方がいい」
 かたわらの男の体温が一気に冷めたのがわかった。だがリィウスは告げた。
「金も随分使ってしまったのだろう? お父上から勘当を迫られていると聞いた……。これ以上愚かなことをしてはいけない」
 しばしの沈黙のあと、低い声が響く。
「俺がおまえを買わなかったら、他の男がおまえを買うことになるのだぞ」
 ディオメデスはエメラルドの双眼を天井に向けたまま言う。その様子からひどく怒っていることが伝わってくる。
「仕方ない。そういう約束でこの仕事を選んだのだから」
 言っていて自分でも情けなくてたまらない。背を向けるように横向きになった。ディオメデスを拒絶するように。
「おまえは、他の男の方がいいのか?」
 声には怒りがこもっていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...