燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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(これだけ恵まれた立場なのに、なぜ、それがわからないのだろう)
 ディオメデスは、リィウスとちがって、望めばこれからのローマの国政にかかわり、発展に尽力できるのだ。
(ローマをささえることができるというのに……)
 ローマ。この世界最大の文明国の都民として、国政にたずさわれるほどの至福があるだろうか。
 リィウスの願いは、この帝都の一臣民としてローマの繁栄と幸福に貢献することだった。
 家運がかたむくことなく、貴族の子弟として何不自由なく順調に育っていたなら、かならずや、一命を賭す覚悟で、文字どおり命がけでローマ発展のために尽くしたろう。それが、ローマの特権階級に生まれた男子の本命だと信じていた。
 それなのに、ディオメデスはせっかく生まれながらにそれが叶う幸運の星のもとに生まれたというのに、その恩恵をただしく使おうとしないのだ。
 そのことがひどくリィウスを苛立たせる。それが、そもそもリィウスがディオメデスを嫌った一番の理由だった。
 今も、娼館でこうして惰眠だみんをむさぼっている。こうしているあいだにも、他の貴族の子弟たちは後見人にならって政治学の研鑽を積んだり、騎士として武芸に励んだり、属国統治のために遠征しているというのに。
 リィウスの怒りと不快さが伝わったのだろう。
「なんだ? その不満そうな顔は」
 ディオメデスは寝転がったまま、頭の後ろで腕をくんで、笑いながら訊く。その笑顔はやんちゃな悪童そのもので、無邪気とさえいえる。
「こんなところでいつまでも油を売っていていいのか?」
 声がつっけんどんになるのは仕方ない。いっそ怒ってディオメデスが出ていってくれれば、と願う。タルペイアは怒るだろうが、ここでこのまま色と酒に溺れていていいわけがない。
 リィウスは自分がディオメデスの将来を心配していることを自覚していなかった。
「何がおかしいのだ? 笑うな!」
 ディオメデスの楽しげな声が閨にひびく。
「いや、すまん。おまえの怒った顔がおもしろくて」
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