燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 ずかずかと男はリィウスの部屋に――リィウスに与えらた唯一の場所であり、ささやかな最後の砦に――入ってくる。
 そして、いきなりおおいかぶさってきた。
「うっ……」
 苦しい、と抗議する声も出せないほどの激しい力で抱きすくめられる。
「早く脱げ」
 まとっていた薄物を乱暴に剥ぎとられる。
 そうしながらも、ディオメデスはリィウスと目を合わせようとしない。以前にはなかった、そんな逃げるような目つきから、かすかに感じるのは、相手がこの状況をひどく居心地悪く思っていることだ。
 抱かれ、犯されようとしているリィウスよりも、犯そうとしているディオメデスの方が、実は内心とまどい、迷い、どうしていいかわからず、結果、乱暴な態度をとらざるを得ないでいるのがなんとなく伝わってくる。
 そんなことを、この状況で冷静に分析している自分にリィウスは驚いた。自分も少し変わってきたようだ。
「ディオメデス、苦しい」
 その声にも、以前はなかった余裕がにじんでいることにリィウス自身気づいた。
「うるさい!」
 逆に余裕をうしない、焦燥に満ちているのはディオメデスの声だ。
「んん……」
 貪るように接吻された。
 獣のように獰猛に自分にせまってくる相手を、だがリィウスはすでに怖いとは思わなくなっていた。
 寝台のうえに自分を組み伏せ、かつてのように優れた愛技や手管で篭絡されていたときとくらべて、この男はなんと他愛もない一面を見せるようになったことか。
(ディオメデスは、もうおまえに骨抜きにされているわ)
 タルペイアの声が耳によみがえる。
(いい、うまくやって、このままディオメデスの心を離さないようにするのよ。けれど、決して、相手を好きになったりするんじゃないよ。おまえの身体も心も柘榴荘のもの、私のものなんだからね)
 ちがう、とリィウスは内心で叫んでいた。
 私の心は私のものだ。
 身体はどれほど男に汚されようと、肉体は永遠に柘榴荘にとらわれようとも、心は、精神はリィウス自身のものだ。
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