168 / 360
五
しおりを挟む
ずかずかと男はリィウスの部屋に――リィウスに与えらた唯一の場所であり、ささやかな最後の砦に――入ってくる。
そして、いきなりおおいかぶさってきた。
「うっ……」
苦しい、と抗議する声も出せないほどの激しい力で抱きすくめられる。
「早く脱げ」
まとっていた薄物を乱暴に剥ぎとられる。
そうしながらも、ディオメデスはリィウスと目を合わせようとしない。以前にはなかった、そんな逃げるような目つきから、かすかに感じるのは、相手がこの状況をひどく居心地悪く思っていることだ。
抱かれ、犯されようとしているリィウスよりも、犯そうとしているディオメデスの方が、実は内心とまどい、迷い、どうしていいかわからず、結果、乱暴な態度をとらざるを得ないでいるのがなんとなく伝わってくる。
そんなことを、この状況で冷静に分析している自分にリィウスは驚いた。自分も少し変わってきたようだ。
「ディオメデス、苦しい」
その声にも、以前はなかった余裕がにじんでいることにリィウス自身気づいた。
「うるさい!」
逆に余裕をうしない、焦燥に満ちているのはディオメデスの声だ。
「んん……」
貪るように接吻された。
獣のように獰猛に自分にせまってくる相手を、だがリィウスはすでに怖いとは思わなくなっていた。
寝台のうえに自分を組み伏せ、かつてのように優れた愛技や手管で篭絡されていたときとくらべて、この男はなんと他愛もない一面を見せるようになったことか。
(ディオメデスは、もうおまえに骨抜きにされているわ)
タルペイアの声が耳によみがえる。
(いい、うまくやって、このままディオメデスの心を離さないようにするのよ。けれど、決して、相手を好きになったりするんじゃないよ。おまえの身体も心も柘榴荘のもの、私のものなんだからね)
ちがう、とリィウスは内心で叫んでいた。
私の心は私のものだ。
身体はどれほど男に汚されようと、肉体は永遠に柘榴荘にとらわれようとも、心は、精神はリィウス自身のものだ。
そして、いきなりおおいかぶさってきた。
「うっ……」
苦しい、と抗議する声も出せないほどの激しい力で抱きすくめられる。
「早く脱げ」
まとっていた薄物を乱暴に剥ぎとられる。
そうしながらも、ディオメデスはリィウスと目を合わせようとしない。以前にはなかった、そんな逃げるような目つきから、かすかに感じるのは、相手がこの状況をひどく居心地悪く思っていることだ。
抱かれ、犯されようとしているリィウスよりも、犯そうとしているディオメデスの方が、実は内心とまどい、迷い、どうしていいかわからず、結果、乱暴な態度をとらざるを得ないでいるのがなんとなく伝わってくる。
そんなことを、この状況で冷静に分析している自分にリィウスは驚いた。自分も少し変わってきたようだ。
「ディオメデス、苦しい」
その声にも、以前はなかった余裕がにじんでいることにリィウス自身気づいた。
「うるさい!」
逆に余裕をうしない、焦燥に満ちているのはディオメデスの声だ。
「んん……」
貪るように接吻された。
獣のように獰猛に自分にせまってくる相手を、だがリィウスはすでに怖いとは思わなくなっていた。
寝台のうえに自分を組み伏せ、かつてのように優れた愛技や手管で篭絡されていたときとくらべて、この男はなんと他愛もない一面を見せるようになったことか。
(ディオメデスは、もうおまえに骨抜きにされているわ)
タルペイアの声が耳によみがえる。
(いい、うまくやって、このままディオメデスの心を離さないようにするのよ。けれど、決して、相手を好きになったりするんじゃないよ。おまえの身体も心も柘榴荘のもの、私のものなんだからね)
ちがう、とリィウスは内心で叫んでいた。
私の心は私のものだ。
身体はどれほど男に汚されようと、肉体は永遠に柘榴荘にとらわれようとも、心は、精神はリィウス自身のものだ。
0
お気に入りに追加
162
あなたにおすすめの小説


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。


男子寮のベットの軋む音
なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。
そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。
ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。
女子禁制の禁断の場所。


塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる