159 / 360
三
しおりを挟む
「どうしたのよ、そんな怖い顔をして」
「……あの、それだけ稼いだら、もうリィウスの借金は帳消しになるんじゃ……?」
一瞬にして、タルペイアの顔色が変わる。
この女はヴィーナスの顔と、頭髪が蛇だという妖女メデューサの顔を使いわけているようだ。もしくは、ローマではパルカと呼ばれている、人の運命をもてあそぶ運命の女神モイラか。
「何言っているのよ、まだまだ足りないわよ。リィウスにはこれからどんどん稼いでもらわないとね」
「……」
思わずベレニケは口をとがらせそうになった。
机の上の金貨を見れば、人間一人が一生に稼げる限界をとうに超えているはずだ。そもそも、タルペイアが言うほど借金が莫大なら、リィウス一人を担保に貸せた金額ではないはず。だが、それを言えば利子がついたのだと言い返されるに決まっている。
利子というものは、結局買い手の一存で変わってしまう。これを持ち出されて泣かされている者は多い。
なまじ上客がついたり売れるようになると持ち主は娼婦を手放さいようになにかと画策し、値を吊り上げたり、必要なものだからと高価な衣や装飾品を売り付けて借金を増やさせたり、身請けをのぞむ客がいれば非常識なほどの金額をふっかけたりもする。
よっぽど財力のある客ならばいいが、そうでなければ大概の客はあきらめる。そうして女たちは年季が伸び、娼館から出られなくなり、出れる日は、女の盛りを過ぎてもはや売りものにならなくなった頃だ。商品価値がなくなる時期をみはからって、娼館もやっと手放してくれる、というより放り出すのだ。
それを想像するとベレニケは背筋が寒くなる。
先輩娼婦のなかには地道に小金を貯めて将来商売でもしようと考えている建設的な者もいることはいるが、そんな者は本当に少数だ。ほとんどの者は若さと美を失えば、未来にまったく希望が持てない状況で、日々をうたかたの夢に託して生きるしかない。
「……あの、それだけ稼いだら、もうリィウスの借金は帳消しになるんじゃ……?」
一瞬にして、タルペイアの顔色が変わる。
この女はヴィーナスの顔と、頭髪が蛇だという妖女メデューサの顔を使いわけているようだ。もしくは、ローマではパルカと呼ばれている、人の運命をもてあそぶ運命の女神モイラか。
「何言っているのよ、まだまだ足りないわよ。リィウスにはこれからどんどん稼いでもらわないとね」
「……」
思わずベレニケは口をとがらせそうになった。
机の上の金貨を見れば、人間一人が一生に稼げる限界をとうに超えているはずだ。そもそも、タルペイアが言うほど借金が莫大なら、リィウス一人を担保に貸せた金額ではないはず。だが、それを言えば利子がついたのだと言い返されるに決まっている。
利子というものは、結局買い手の一存で変わってしまう。これを持ち出されて泣かされている者は多い。
なまじ上客がついたり売れるようになると持ち主は娼婦を手放さいようになにかと画策し、値を吊り上げたり、必要なものだからと高価な衣や装飾品を売り付けて借金を増やさせたり、身請けをのぞむ客がいれば非常識なほどの金額をふっかけたりもする。
よっぽど財力のある客ならばいいが、そうでなければ大概の客はあきらめる。そうして女たちは年季が伸び、娼館から出られなくなり、出れる日は、女の盛りを過ぎてもはや売りものにならなくなった頃だ。商品価値がなくなる時期をみはからって、娼館もやっと手放してくれる、というより放り出すのだ。
それを想像するとベレニケは背筋が寒くなる。
先輩娼婦のなかには地道に小金を貯めて将来商売でもしようと考えている建設的な者もいることはいるが、そんな者は本当に少数だ。ほとんどの者は若さと美を失えば、未来にまったく希望が持てない状況で、日々をうたかたの夢に託して生きるしかない。
0
お気に入りに追加
162
あなたにおすすめの小説



どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる