141 / 360
五
しおりを挟む
「どうした?」
「あの男、また来ている……」
エウトゥキスの顔は青白くさえ見える。
「何だ? 嫌な客でもいるのか?」
廊下を見渡すと、店先の、広間とはとうてい呼べないが、やや広まった辺りで、娼婦を検分している客がいた。
娼婦、男娼たちは、たいていその辺りで客を待ち、客に選ばれると個室に入ることになっている。
「ふむ。お前が良いかな?」
背中しか見えないが、ディオメデスの目にはごく普通の中年男のように思える。着ている物は地味で、貴族や上流の人間ではないだろうが、ある程度の教育を受け知性があることは、喋り方からうかがえる。
心なしか、応対している女将の顔がこわばっているのが、ここからでも何となく感じられた。
「あの男がどうかしたのか?」
癖の悪い客なのだろうか。ディオメデスは急いではいたが、つい気を引かれて訊いていた。エウトゥキスが苦い顔をした。彼女がこんな表情を見せたのは初めてだ。
「嫌な客なのよね。いえ、嫌っていうより、怖いのよ」
「怖い?」
エウトゥキスは頷いた。
「買った子を連れ出すの。勿論、それなりのお金を払ってくれるんだから、店としては文句は言えないんだけどさ……。ただ、」
戻ってきた娼婦は普通ではなくなっていたという。
暗く、無口になり、心を病んで廃人になってしまったり、なかには自殺した者もいたという。
「戻って来なかった子もいたよ。逃げ出したとか言ってね」
「戻って来なかった? 女将は文句は言わなかったのか?」
「それなりのお金さえ払ってくれたら、何も言わないよ。いえ、言えないんだよ。なんだか……怖いし。後ろに、かなり大物がいるらしくて、女将が言っていたことがあったの」
とにかく、あの客を怒らせてはいけない、と。
「女将も、本当はあんまりいい顔してないんだけれど……、まぁ、こういう店だし」
「ふうむ……。そんなに怖い男なのか?」
「あの男、また来ている……」
エウトゥキスの顔は青白くさえ見える。
「何だ? 嫌な客でもいるのか?」
廊下を見渡すと、店先の、広間とはとうてい呼べないが、やや広まった辺りで、娼婦を検分している客がいた。
娼婦、男娼たちは、たいていその辺りで客を待ち、客に選ばれると個室に入ることになっている。
「ふむ。お前が良いかな?」
背中しか見えないが、ディオメデスの目にはごく普通の中年男のように思える。着ている物は地味で、貴族や上流の人間ではないだろうが、ある程度の教育を受け知性があることは、喋り方からうかがえる。
心なしか、応対している女将の顔がこわばっているのが、ここからでも何となく感じられた。
「あの男がどうかしたのか?」
癖の悪い客なのだろうか。ディオメデスは急いではいたが、つい気を引かれて訊いていた。エウトゥキスが苦い顔をした。彼女がこんな表情を見せたのは初めてだ。
「嫌な客なのよね。いえ、嫌っていうより、怖いのよ」
「怖い?」
エウトゥキスは頷いた。
「買った子を連れ出すの。勿論、それなりのお金を払ってくれるんだから、店としては文句は言えないんだけどさ……。ただ、」
戻ってきた娼婦は普通ではなくなっていたという。
暗く、無口になり、心を病んで廃人になってしまったり、なかには自殺した者もいたという。
「戻って来なかった子もいたよ。逃げ出したとか言ってね」
「戻って来なかった? 女将は文句は言わなかったのか?」
「それなりのお金さえ払ってくれたら、何も言わないよ。いえ、言えないんだよ。なんだか……怖いし。後ろに、かなり大物がいるらしくて、女将が言っていたことがあったの」
とにかく、あの客を怒らせてはいけない、と。
「女将も、本当はあんまりいい顔してないんだけれど……、まぁ、こういう店だし」
「ふうむ……。そんなに怖い男なのか?」
0
お気に入りに追加
162
あなたにおすすめの小説



どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる