燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 ウリュクセスが感心したように言う。
「ああっ! ああっ! ああああっ!」
 リィウスは狂ったように首を振った。
 すぐ、そこまで来ていた。
 あと少しだった。あとほんの少し耐えて、すべてをさらけだせば、先ほどのサラミスとおなじようにリィウスは彼のオリンポスへ飛ぶことができた。
 いや、オリンポスよりはるか先、永遠の楽園、エリュシオンに生きたまま足を踏み入れることが許されるのだ。
 だが、心のなかで激しい葛藤がある。
 捨てきれない自尊心が、羞恥心が、最後の最後でリィウスを引き留めるのだ。
 あと、もう少し、というところで気が引けてしまう。文字通り腰が引けて、動きが弱まる。
「ほら、なにしているの? 腰の動きが小さくなってきているわよ」
 タルペイアが、ここにきてリィウスがとまどっていることを察して、きつい目を向けてくる。
「今更、なにお行儀ぶっているのよ。ここまで生き恥さらしたら、あとはもうどうなっても一緒でしょう? はやく遂くのよ。ウリュクセス様をいつまで焦らす気?」
「いやいや、私は気にならないよ。むしろ、リィウスの戸惑う様子をずっと見ていたいね。なんて美しい、いじらしい姿だろう。ああ、可愛い」
 ウリュクセスがリィウスの顎を取る。
 涙に濡れた頬を撫でる。その仕草はひどく優しげだ。だが、彼はこの行為を止めてはくれない。けっしてリィウスを救ってはくれない。むしろ、リィウスの崩壊を待ちのぞんでいるのだ、ということはリィウスには痛いほどわかった。
 いや、ウリュクセスだけではなく、ここにいる者たちは皆、タルペイアをはじめアスクラも、宦官たちも、壁際に座りこんでしまっているサラミスでさえ、リィウスが快楽に完全屈服するのを、じりじりと待っているのだ。
 さらに、リィウスは気づいていないが、帳の向こうでは、あろうことか義弟のナルキッソスや、恨み深いディオメデス、忠実なはずのアンキセウスまでもが、息を呑んでリィウスが墜ちる瞬間を待っているのだ。
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