燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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「リィウス、こちらへ来なさい」
 女王然と、先頭を切って歩いていたタルペイアが振り向きざまに声をあげた。
 今宵は透けて見える黒絹の衣をまとっており、豊満な乳房が壁際の蝋燭の光に妖しく照らされている。
 後につづいていたのは、サラミスだ。金の髪が背に波打っている様はひどくなまめいて見える。彼女の今日の衣は、こちらも透けて見える白で、タルペイアと対照的だ。
 リィウスはおそるおそる進みでた。
 頬がいつもより青白く見えるのは、サラミスやアスクラのほかに、見知らぬ男と、そしてマロがいるせいだ。
「こちらの方はね、ウリュクセス様よ。幅広く商売していらっしゃる方よ。ローマの半分の富を吸い取っているといっても過言ではないわ」
「半分なんて、大袈裟ですよ、ドミナ・タルペイア。まぁ、せいぜい五分の一ぐらいかな」
 ウリュクセスと呼ばれた男は目を細めた。
 中肉中背で、歳は四十にはまだいってないが、この時代では、もはや人生の盛りを過ぎている年齢である。黒い髪には白いものが混じっている。
「まぁ、ご謙遜を。ギリシャでの貿易で、かなり儲けられたとか。それに、この街にくる奴隷の半分はウリュクセス様が買ってこられたものだと」
 タルペイアが含み笑いを見せる。
「私は二親ともローマ人だが、幼少期はギリシャで育ってね。ギリシャは私にとっては、もうひとつの祖国のようなもので、二年に一度は行きたくなるんだよ」
 ウリュクセスと呼ばれた男は微笑み返した。
 その微笑に、どこか不吉なものを感じて、リィウスは後ずさりそうになる。
「どう? ウリュクセス様、この新しい男娼は? なかなかの美男でしょう?」
「ああ……! 素晴らしいね。一目見て気に入ったよ。東洋の旅人たちが言う一顧傾城いっこけいせいというのは、君のような人を言うのだろうね」
 男娼であるリィウスに対しても丁寧な喋り方をするところからして、なかなかの人物なのだろうが……、リィウスはいっそう油断できないものを感じて頬をこわばらせた。
「ん、もう! こういうときは、笑みを浮かべてお礼を言うものよ。気が利かないわね」
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