燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 だが、今の邪悪な笑みえをうかべるナルキッソスの表情は、やはり普通ではない。彼は、異様な愛憎を義理の兄にたいして抱いているようだ。
 リィウスのようなたぐいまれな人を兄と呼ぶ運命に身をおいたナルキッソスの不運が原因なのか、もしくはナルキッソス自身が最初からどこか歪んでいたのか。アンキセウスの考察は、メロペの声にさえぎられる。
「それは、最初は嫌がって泣いたが、なんといってもあのタルペイアだ、さんざん焦らして、その気にさせてな。ぐふふふふ。最後は泣きじゃくりながら、リィウスがせがむまで追い詰めた」
 悔しいが、その言葉にアンキセウスは昂ぶる己を自覚した。
(俺も最低だ)
 ナルキッソスやメロペを軽蔑しながらも、結局はやはりリィウスの凄絶な美貌が肉の快楽にもだえてくずれるのを見たくて仕方ないのだ。
(そうだ……、俺は、見たい。リィウス様の乱れる姿を、快感に墜ちるところを見たい)
 どれほど恥じても、この想いを消すことはできない。
「見たいな。兄さんが娼婦にいじめられているところ」
 ナルキッソスの紅い唇がほころんで、そこから蛇の舌がのぞくようだ。その紅い舌で彼は唇を舐めた。ちいさな獣が獲物をもとめているように。
「見たいか? 今度見せてやろうか?」
「本当?」 ナルキッソスは碧の瞳を残忍そうに輝かせた。
 一瞬、制止の声を出そうとしたアンキセウスだが、身分をわきまえて口を閉じているしかない。
 アンキセウスが止めて聞くような少年ではないし、なにより……アンキセウスも心の隅で、主の崩壊する姿を見たいと思ってしまうのだ。
(リィウス様、お許しください)
 アンキセウスの懊悩などかえりみることもなく、メロペとナルキッソスはよこしまな欲望に燃えて、たくらみを語りあう。
「今度、こっそりと連れていってやるぞ、柘榴荘へ。そこで、リィウスがどんな練習をしているのか、見せてやろう。ひっ、ひっ、ひっ」
「嬉しい。本当だよ。ぜったい、連れていってよ」
 良心も道徳心も持たない二人の小悪党は、欲に染まりぬいて、麗人をおとしめる約束をしている。
 アンキセウスは呆れ果てながらも、自分自身に毒づくしかない。
(ああ、俺も見たい……)
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