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四
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そう……。たいしたことではない。この時代にはよくある、遠い日のすこし残酷なお話。タルペイアはそう思うことにしている。
グナトンが、母の気に入りの役者だったことも、それをタルペイアの父とされる得意客の男が憎んだことも、グナトンが幼かったタルペイアを可愛がってくれたことも、彼の瞳の色が、タルペイアの瞳と同じ色であることも、たいしたことではない。
なぜ、父が、母の気に入りの役者であるグナトンを嫌って殺すにしても、その遺骸をわざわざ柘榴荘の地下の壁に埋めたのか……。まるで、母に、このことを忘れさせないように、とでもいうかのように。あてつけるかのように。
理由を確かめようにも母はタルペイアが十三になったとき亡くなり、父と呼んでいた男もその事件以後、柘榴荘に顔を見せなくなった。
もともと、そういう関係だったのだから、べつに寂しいとも悲しいとも思わなかった。
タルペイアは母の死後、母の忠実な召使たちに支えられ、柘榴荘と娼館の主という立場を受け継いだ。
すべては本当に遠い日の夢のようだ。
だから、タルペイアは、その夢におのれの人生を支配されたとは思っていない。地下で怨嗟の声をあげる亡霊は、自分の今の生き方になんの関係もないはずだ。庭の土中で土竜や虫に食われた娼婦の声なき呻きなど、知るものか、とも。
世間一般の貞淑な令嬢や人妻から白い目で見られようとも、自分はこうあるべきで、これで良いのだ、と思っている。尋常でない、普通でない、と言われても、それを気に病むような柔な心など持ちあわせはいない。
タルペイアは、よく人から冷たいと言われる純黒の目を、リィウスの白いなめらかな肌に向け、彼の苦悶の表情を味わいつづけた。
グナトンが、母の気に入りの役者だったことも、それをタルペイアの父とされる得意客の男が憎んだことも、グナトンが幼かったタルペイアを可愛がってくれたことも、彼の瞳の色が、タルペイアの瞳と同じ色であることも、たいしたことではない。
なぜ、父が、母の気に入りの役者であるグナトンを嫌って殺すにしても、その遺骸をわざわざ柘榴荘の地下の壁に埋めたのか……。まるで、母に、このことを忘れさせないように、とでもいうかのように。あてつけるかのように。
理由を確かめようにも母はタルペイアが十三になったとき亡くなり、父と呼んでいた男もその事件以後、柘榴荘に顔を見せなくなった。
もともと、そういう関係だったのだから、べつに寂しいとも悲しいとも思わなかった。
タルペイアは母の死後、母の忠実な召使たちに支えられ、柘榴荘と娼館の主という立場を受け継いだ。
すべては本当に遠い日の夢のようだ。
だから、タルペイアは、その夢におのれの人生を支配されたとは思っていない。地下で怨嗟の声をあげる亡霊は、自分の今の生き方になんの関係もないはずだ。庭の土中で土竜や虫に食われた娼婦の声なき呻きなど、知るものか、とも。
世間一般の貞淑な令嬢や人妻から白い目で見られようとも、自分はこうあるべきで、これで良いのだ、と思っている。尋常でない、普通でない、と言われても、それを気に病むような柔な心など持ちあわせはいない。
タルペイアは、よく人から冷たいと言われる純黒の目を、リィウスの白いなめらかな肌に向け、彼の苦悶の表情を味わいつづけた。
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