燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 その言葉を唇から吐き出すために、リィウスは息を吐いた。
 震える薔薇色の唇がたまらなく蠱惑的だ。
 一瞬、ディオメデスは彼の吐き出したせつなげな吐息に夢を見そうになった。
 歴史物語に伝え聞く、零落れいらくした貴婦人たちの姿が浮かびあがる。アンドロマケやカッサンドラのような亡国王女の屈辱と苦悩、それでいて傾国の美女ヘレネの破滅的な魅力をも彼はしのばせているのだ。襲われて墜ちる者の痛ましさに、逆に人を狂わせ堕落させるような壮絶な魔力めいた魅力。
「も、申し訳ございません、だ、旦那様……」
 言い終えると、リィウスの目はまた閉じられ、滂沱ぼうだの涙がさらにあふれる。
 被虐にふるえて血のような涙をながす誇りたかき貴公子のあわれきわまりない姿に、ディオメデスは、抱きしめてやりたい欲望と、いっそう苛めて泣かしてやりたい欲望に責めさいなまされる。保護欲と加虐欲を同時に引き出され、燃えたたされるのだ。
「さ、この生意気な奴隷が、無礼のお詫びに、お客様のまえで、いただいた贈り物を出してみせますわ。とくとご覧あれ」
 タルペイアが取り澄ました口調で滔々と述べる。
「うっ!」
 どうあっても、その淫虐な行為をつづけさせるつもりらしい。
 ディオメデスもまた、制止の言葉を出さなかった。出せるわけがない。ひかえているベレニケの目は相変わらず陶然としている。
「さぁ、なにをぼんやりしているの。お客様がお待ちでしょう」
「ううっ……!」
 白い太腿がふるえる。一筋、二筋、香油か汗か、ながれるものが見えた。
「ほら!」
「ああっ……」
 リィウスは嗚咽しながらも、強いられた恥辱きわまりない行為をはたすべく努力した。
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