燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 無我夢中なのか、少しでも恐怖と苦痛から逃れたいのか、リィウスもいつもの高慢さや清廉さをかなぐり捨てて、必死に言われたとおりにしようと努めている。
 そんな様が、ひどくいじらしく、可憐に思える。
「ああ……、も、もう、」
「なんだ? まだ何もしてないぞ」
 揶揄うように言ってやると、またいっそう頬を赤く染める。
 耳朶まで赤く染めた優等生の秀才。石頭で気位ばかり高くて処世というものをまるで知らず、ここまで落ちぶれた哀れな没落の君子。それが、どうしてこれほどに可愛いのか。
「可愛いぞ……」 
 思ったことをそのまま言葉に出してしまう。
 腕のなかで喘ぐ相手は、その言葉をどう聞いたのか、切なげに首を横にふる。閉じている瞼から涙があふれる。これがいつも取り澄まして、気位の高かったリィウスだろうか。つねに彼が放っていた強烈な冷美さ、あのぞっとするような冷艶れいえんさが、今はまるでない。
その代わりとろけるようなねっとり甘い蜜を全身からしたたらせるようにして、今や死にものぐるいで、憎いはずのディオメデスにしがみついてくる。
「いいか? 動くぞ」
「ああ……! ま、待って、待ってくれ!」
「駄目だ。もう待てん」
 ディオメデスの方も余裕がなくなってきた。今も実は必死に自制していたのだ。
「もっと強く俺にしがみつけ」
「はぁ……!」
 素直に言われたとおりにするところが、ディオメデスをほとんど有頂天にさせた。
「そうだ。いい子だ」
 交わりを深くして、未知の行為にひたすら怯えて震えているリィウスの唇を吸う。
「うう……」
「いいか、おまえは俺のものになるんだ。いや、もう俺のものになっている」
「うううう!」
 頬を濡らすあらたな涙をディオメデスは舌ですくう。
「もうおまえは、俺の女だ」
 びくん、とリィウスが一瞬ふるえたのが伝わった。
 どうやらその言葉は、リィウスのなかの、なけなしの最後の気骨を煽ったようだ。
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