燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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「なんだ、楽しそうな声が聞こえたから、てっきり最中だと思ったぞ」
 若いくせにたるんだ頬に、色にふやけたような目でメロペはリィウスを覗きこんだ。その視線からリィウスを隠してやりたい、という想いが胸を突く。だが、ディオメデスはあえて嗜虐的にふるまった。
「もう、すっかり準備はできているぞ」
「ああっ!」
 身を起こし、リィウスの右脚を思いっきり引っ張りあげる。
「うう……」
 メロペたちの目に、秘部があらわになり、リィウスは絶望にのけぞった。
 目を開ける勇気もないようで、顔を、男にしては細い両手でひたすら覆い、どうにかして隠そうとしている様子はひどくいじらしく、ならず者にいたぶられる深窓の令嬢のようだ。
 トロイ陥落の折、ギリシャ兵に襲われたトロイ貴族の姫君たちはこんなふうだったのだろうか……と、ディオメデスは胸を小針で刺されたような痛みをおぼえる。
「白い脚だな……」
 それまで無言で成り行きを見ていたアウルスが感心したようにつぶやく。
 蝋燭一本のほのかな紅色の闇のなか、あらわにされたリィウスの脚は、たしかにぬめるように白く艶やかで、真珠色に輝いている。
 ディオメデスも十二ではじめて女を知ってから、美女、美男、美童と、かなり経験をつみ、この若さですでにかなりの艶聞で知られているが、だが、これほど美しい身体を見たことはない。
「ほう。どれどれ」
 遠慮を知らないメロペのぶあつい手が、リィウスの内股を撫であげる。
「ああ……! さ、さわるな!」
 それまで、襲われた乙女のようにひたすら怯えていたリィウスが、声を荒らげて凌辱者たちに吼えた。
 一瞬、メロペは鼻白んだ顔になる。だが、すぐに目尻を下げてわざとらしく笑う。
「この期におよんで気が強いな。相変わらずお貴族様のつもりなんだな。ディオメデス、この生意気な奴隷をどうする?」
 訊かれたディオメデスは微笑してみせた。
「まぁ、そう急ぐな。夜は長い。これからじっくり仕込んでやるさ。二度と俺たちに生意気な口がきけないようにな」
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