燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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「うっ……」
 かなり乱暴に練りものを繊細な箇所に押しこまれ、リィウスは辛さに身をよじる。むろん、今の己の姿の恥ずかしさも辛くてたまらない。
「あら、痛くした?」
 リキィンナの指が軟化したようで、一瞬、楽になった。
「ごめん……。ちょっと苛立っているのよね、私」
 その後の仕草は、打って変わって優しくなった。
「すこし、苛々しているものだから……。ほら、全部入ったわ。これでもう大丈夫よ。すぐ良くなって、お客を楽に迎えいれられるわ」
「はぁ……」
 リィウスは溜息とも吐息ともつかぬ息を吐いて、身体が押しこまれた異物に慣れるのを待った。
 時間はそうかからなかった。
(ん……、ああ……)
 リキィンナの言うとおり、異物はすぐに馴染み、奇妙な暖かさをその箇所にもたらす。
「こ、これ……」
「良くなってきたでしょう? もう辛くないからね。お客も喜ばれるし、あんたも楽しめるのよ」
 すこしほつれたリィウスの前髪を指でなおしてくれながら、リキィンナは先輩娼婦らしく説明する。
「お客もあんたが初めてだって知っているから、まぁ、すこしは手心を加えてくれるでしょうよ。……実を言うとね、今日のお客は私もちょっと気に入っているのよ。……正直、あんたと代わりたいぐらい」
 酒のせいか、リキィンナの濃厚な蜂蜜色の頬が赤黒く染まっている。いつも全身から蜜香みつこうをほとぼしらせているように色っぽい女だが、今は色気よりも別の風をまといつかせて、それはそれで見る者の気を引く。
 ちょっと妬いているのよね……、と照れたように呟き、そっぽを向いて、ごめん、とまた謝った。こういうところは子どものようで、憎めない娼婦である。
 だが、今のリィウスは、やはり緊張と恐怖で足が震えそうだった。いくらそれが勤めとはいえ、こんな恐ろしい状況へと自分を追いやるリィキンナを、どうしても恨めしく思ってしまう。
 そんなリィウスの心情を察したのか、リキィンナがすこし寂しげな笑みを浮かべる。
「今夜のあんたは花嫁さんよ。新妻の室に、もうすぐ新郎が来るから、心して待っているのよ」

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