燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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獣の宴 一

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 いよいよ今夜、リィウスを抱けるのだ。
 そう思うだけでディオメデスの胸はわくわくする。
「ディオメデス、本当にするのか?」
 この期におよんで、アウルスは浮かない顔をしている。
「当たり前だ。今になって止めれるか」
 馬から下りると、従者に手綱をあずけて、ディオメデスは足早に門内へと進む。アウルスがその背に続いていく。
「だが、……まがりなりにも、旧知の仲だろう。そりゃ、仲が良いとはいえないが。本気でリィウスを金で買うつもりか?」
「だからこそ、見知らぬ男に買われるより、旧知の仲の俺に買われた方がいいではないか?」
 そうだ。なによりリィウスの最初の客になりたいのは、他の男がリィウスを自分より先に抱くことが嫌なのだ、ということをディオメデスは気づいていなかった。
 もはやアウルスは何も言わない。 
 アウルスには妙なところがある。ディオメデスと付き合っているぐらいだから、お世辞にも道徳心があるとか潔癖とは言えないが、ときにやけに生真面目な顔をすることがある。なにか思い込んでいるような、考え込んでいるような思索的な表情になるのだ。
 だが今のディオメデスはアウルスの心情を考察するよりも、目の前の快楽の館に足を運ぶことの方が大事だった。
「これはようこそディオメデス様」
 迎えに出たのはリキィンナだった。
 黒蜜のような瞳が、ねっとりと舐めあげるように自分を見上げてくるのに、ディオメデスは笑みで応えた。相変わらず色っぽい女だと内心感嘆する。
「こちらへどうぞ」
 薄手のチュニックの下のふくらんだ胸を、心なしかディオメデスの身体に軽くつけてくる。薔薇の香がするのは、たんねんに香油を塗りたくっているからだろう。全身に、飴色の霞のようなものをまとって、全力で男心を誘ってくる女だ。だが、今夜はこの女に用はなかった。
「メロペはどうしている?」
「昼からベレニケとお楽しみよ。そろそろ出て来るんじゃないかしら?」
 メロペも絶対にこの日を逃しはしないだろう。気位の高いリィウスが自分たちを前にどんな顔をするか……。想像して、嗜虐的な興奮にディオメデスは胸を熱くした。
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