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魔女の教え 一
しおりを挟む「あんたの水揚げが決まったわ」
タルペイアに呼ばれて彼女の室に入ると、即座にそう告げられ、リィウスは唇を噛んだ。
とうとう……という想いが胸を押しつぶす。
「もう身体もだいぶ慣れたようだし、そろそろいいと思うわ。いい、相手は上客よ。うまくやるのよ」
タルペイアは、椅子に腰かけ、コリンナに自慢の射干玉の黒髪を櫛で梳かせている。コリンナは行儀見習いも兼ねて、タルペイアのそばで彼女の召使としても働いていた。
「ちょっと、痛いじゃないの、もっと、丁寧に優しくしてちょうだい」
「は、はい」
コリンナの手には黄金の櫛がある。タルペイアがまとっているのは夜霧のような黒絹の衣だ。皇女が使うような道具で身づくろいをさせながら脚をくんで裾を揺らす黒髪黒目の美女は、まさしく夜の世界の女王、月の女神だった。
(いや、ちがうな。月の女神は処女だった)
つい、そんな皮肉なことを考え、リィウスは目を伏せた。
「いい? 五日後の夜だから、それまでにちゃんと後ろで客を楽しませられるように、練習をおこたるんじゃないわよ」
こういうあけすけな話を平然とするところからして、いかにも娼館の女将らしい。
リィウスは貞節も羞恥も吹きとんだ世界で、悲しいあきらめの想いを噛みしめて頷いた。
「リキィンナ、いる?」
緋色の帳を張りめぐらした奥部屋にむかって、タルペイアが声をはなった。
「ええ、ここに」
控えていたリキィンナが、低い足音を響かせて帳をめくって顔を見せる。
「聞いていた? 初仕事は五日後だから、いっそう念を入れて鍛えてやってちょうだい」
「わかったわ。じゃ、ちょっとやってみましょうか。リィウス、そこに四つん這いになってみて」
あっさりと言われ、リィウスは耳を疑った。
「こ、ここで?」
うろたえてはいけないと思っても、口からこぼれる声は震えてしまう。
「そうよ。ほら、」
リキィンナは色石を敷き詰めてつくられたモザイク画のある床を指差す。
「さっさとして。自分で裾をまくりあげて、腰を上げてみて」
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