燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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「どうだ? 見えるか?」
 世にも淫蕩いんとうな場面が展開されている広間の壁の裏側で、ささやき声が漏れた。
「ああ……、すごいな」
「俺と代われ」
 最初に見ていたのはメロペだったが、彼を押しのけるようにしてディオメデスが覗き窓から中の様子をうかがった。
 この小部屋にはちいさな円窓があり、そこから中の様子をうかがえるようにしてある。
 覗き趣味の客のために、たいていの娼館にはこういった仕掛けのある場所があるもので、古代ローマにはすでに覗き趣味を意味する「ラスキーウス」という言葉があったぐらいだ。
 我知らず、ディオメデスはごくり、と喉を鳴らしていた。
 丸い小窓の向こうから、悲鳴のような声と、熱気がただよってきた。
「ううっ……! ああっ……!」
 実際に見聞きするまで、どうしても本当は信じられなかった光景がすぐそこで展開していた。
(リィウス……?)
 
 大理石の床上で、うごめくものが見える。上半身は薄手の白いチュニックをまとっているようだが、下半身は無残なことに剝きだしで、ほっそりとした腕は、やはり男にしては細い背中で紐か縄のようなもので括られて動きを制限されいている。
 脚を折るようにしているので、腰があがって、獣のような卑しい姿勢になっているが、それでいてその白い肌からは、ここから見ても生まれ育ちの良さが感じられ、高貴な気品が匂いたつようだ。
 生まれながらの貴族しか持ちえない天稟てんりんの品性というものが、これほど貶められても損なわれることなく、というより、強いられる行為が淫らであればあるほど、痛ましく思え、美しく見えるのだから、やはりリィウスという人間は普通ではない、とディオメデスは妙に感心してしまった。勿論、口に出しては絶対言わないが。
(リィウス……)
 激しい欲望が胸の内でうずまく。
 高慢なまでに誇りたかいリィウスが、嫌い憎んでいる自分がここで彼のあられもない姿をすべて見ていると知ったら、どうするだろうか。おそらく舌を噛み切りたいほどの屈辱を感じることだろう。
 そんな嗜虐的な想いが胸に湧く。
「なぁ、いつ売り出すんだ?」
 声をかけたのは、背後に控えているアスパシアに向かってだ。訊かれたアスパシアは淡い茶色めいた目を濡れたように潤ませ、言葉をにごした。
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