燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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「兄さんはどのみち娼婦に……、男娼に堕ちるしかないんだ。当然だよ。プリスクス家の借金なんだもの。当主の兄さんになんとかしてもらわないとね」
 青銅の杯に、アンキセウスに葡萄酒を注がせ、ナルキッソスは高慢そうに鼻をそらす。驕慢な美少女そのものの態度に、アンキセウスは再度、感心して舌をまく。
「今頃、兄さん、どうしているかな? あの女主……タルペイアの調教を受けているんだろうね。あの女、その道にかけては凄腕だって聞いたよ。……今頃、どんな顔しているんだろう? くっ、くっ、くっ」
 アンキセウスは何も言わなかった。
 だが、頭はついナルキッソスに挑発されるように動き、リィウスの姿を思い浮かべてしまう。今頃、リィウスは……男娼となるべく女主の教育を受けているのだ。あの誇りたかい、気品のある顔がどんなふうに歪むのか、想像してアンキセウスは頬が熱くなりだしたのを感じた。
 いや、熱くなってきたのは、顔だけではない。
「ふふふふふ」
 ナルキッソスが邪悪に碧眼をきらめかせ、細い腕でアンキセウスを手招きする。
「こっちへ来いよ」
 アンキセウスは言われるままにナルキッソスに近づくと、彼のまえに跪いた。どのみち、リィウスがいない今では、彼がプリスクス家の当主代理となるのだ。アンキセウスに断る権利はない。
「脱がせろよ」
 伸びてきたナルキッソスの白い足。その足首から、ていねいに皮の紐をほどき、沓をはずす。アンキセウスは、あえてゆっくりと、焦らすように時間をかけて紐をほどいた。
「舐めろよ」
 言われるがままに、手入れのゆきとどいたナルキッソスの足の指に舌を這わせる。こういう細かいところまで日頃から気を使って清潔にしているところにも、ナルキッソスの普通ではない嗜癖しへきや性癖がにじみ出ている。
(そのことに長いこと気づかなかったリィウス様、あなたも悪いのですよ)
 アンキセウスの脳裏に、リィウスの神経質そうな顔が浮かぶ。気品にあふれた物腰、ほっそりと女のように華奢な肩、それでいてけっして惰弱にはならず、たしかな気骨を内に秘めているのがしのばれた若き肉体。
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