燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

文字の大きさ
上 下
12 / 360

しおりを挟む
 その隣でにやにや笑っているもう一人の友人、というより完全な取り巻きのメロペ・ウィタリスにくらべれば、まだしもリィウスは彼が好き――とは決して言えないにしても、それほど嫌いではなかった。
 メロペの方は、身長は二人にくらべれば低い。リィウスよりもやや低いぐらいで、体躯たいくは太くはいないが、なんとなくずんぐりして一見、愚鈍なふうにも見えるが、有名な弁論家の息子で、父親に似たのか意外と頭は悪くない。
 アウルスの父は執政官で、二人ともゆくゆくはそれぞれ親の稼業を継ぐだろう。財力はディオメデスには遠くおよばないが、それでもリィウスにくらべればはるかに恵まれた金持ちの息子たちである。そして二人とも享楽的で、ディオメデスとつるんでは、いつも女と観劇、剣闘の話をしている。
「女が待ちくたびれているぞ。今日のところは諦めろ」
 聞きようによっては、今日はやめて別の日にやれ、とけしかけているようで、リィウスは癇の虫がはしりそうになったが、アウルスの淡い茶褐色の目には揶揄の色はなく、どこか、物事をおもんぱかるような思慮がうかがえる。彼は、どうにかして悪友をおさえ、この場を無難にやり過ごそうとしているのかもしれない。
「しょうがないな。では、またの楽しみにするか」
 またなどあるか! と叫びたいのをこらえてリィウスは汚いものを振りきるようにディオメデスの力を抜いた手をはらいのけ、嫌悪をかくそうともせず、背を向けた。子犬のように怯えて控えていた奴隷があわてて後を追ってくるのがわかる。
 つくづく金が無いという我が身の現状が惨めだった。


「ちっ!」
 リィウスを見送るディオメデスは忌々しげに舌打ちした。欲しい玩具を手に入れられなくて苛立っている子どものようである。
「さすがのおまえも、あの潔癖屋には振られっぱなしだな」
 揶揄をこめたアウルスの言葉に、ディオメデスが苦笑する。
「だが、あきらめるのは早いぞ」
 メロペが分厚い唇を意味ありげにゆがめた。
「面白い噂を耳にしたのだがな、」
「なんだ?」
 メロペのもたらした話は、そのあとディオメデスの機嫌をなおさせるに充分なものだった。 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

捜査員達は木馬の上で過敏な反応を見せる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

男子寮のベットの軋む音

なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。 そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。 ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。 女子禁制の禁断の場所。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

処理中です...