燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 その隣でにやにや笑っているもう一人の友人、というより完全な取り巻きのメロペ・ウィタリスにくらべれば、まだしもリィウスは彼が好き――とは決して言えないにしても、それほど嫌いではなかった。
 メロペの方は、身長は二人にくらべれば低い。リィウスよりもやや低いぐらいで、体躯たいくは太くはいないが、なんとなくずんぐりして一見、愚鈍なふうにも見えるが、有名な弁論家の息子で、父親に似たのか意外と頭は悪くない。
 アウルスの父は執政官で、二人ともゆくゆくはそれぞれ親の稼業を継ぐだろう。財力はディオメデスには遠くおよばないが、それでもリィウスにくらべればはるかに恵まれた金持ちの息子たちである。そして二人とも享楽的で、ディオメデスとつるんでは、いつも女と観劇、剣闘の話をしている。
「女が待ちくたびれているぞ。今日のところは諦めろ」
 聞きようによっては、今日はやめて別の日にやれ、とけしかけているようで、リィウスは癇の虫がはしりそうになったが、アウルスの淡い茶褐色の目には揶揄の色はなく、どこか、物事をおもんぱかるような思慮がうかがえる。彼は、どうにかして悪友をおさえ、この場を無難にやり過ごそうとしているのかもしれない。
「しょうがないな。では、またの楽しみにするか」
 またなどあるか! と叫びたいのをこらえてリィウスは汚いものを振りきるようにディオメデスの力を抜いた手をはらいのけ、嫌悪をかくそうともせず、背を向けた。子犬のように怯えて控えていた奴隷があわてて後を追ってくるのがわかる。
 つくづく金が無いという我が身の現状が惨めだった。


「ちっ!」
 リィウスを見送るディオメデスは忌々しげに舌打ちした。欲しい玩具を手に入れられなくて苛立っている子どものようである。
「さすがのおまえも、あの潔癖屋には振られっぱなしだな」
 揶揄をこめたアウルスの言葉に、ディオメデスが苦笑する。
「だが、あきらめるのは早いぞ」
 メロペが分厚い唇を意味ありげにゆがめた。
「面白い噂を耳にしたのだがな、」
「なんだ?」
 メロペのもたらした話は、そのあとディオメデスの機嫌をなおさせるに充分なものだった。 
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