10 / 360
四
しおりを挟む
ふと、リィウスはあらためてディオメデスを見上げた。
ちょうど頭ひとつ分リィウスより高く、横幅はほとんど倍ありそうだ。かといって、体格だけで知性がないという類の男でもない。貴族の道楽息子と侮ってはいても、ディオメデスは実は学問も抜きんでていた。
幾度か議論を交わしたこともあるが、最後のところで、ディオメデスはあっさりと退いてしまう。勝つことに固執していない様子が見え見えで、真剣にやっている自分が間抜けに思えてしまう。そう思わせるために、敢えて退いて、さっさと降りてしまうのだろう。
そういうところがリィウスをいらだたせる。立派な頭脳と体格を持ちながら、彼からは、それを国家のために使おうという理念も思想も感じられない。すべてに満たされているせいで、欲がないのかもしれないが、必死に生きている自分のような人間を見下し、嘲笑っているところが感じられ、それが激しくリィウスの癇にさわるのだ。
(この男とは、決して相容れないだろうな)
だが、時代は、今のこのローマは、こういう男を愛しているのだ。いくらリィウスが優秀な頭脳と高潔な性格をそなえていても、門閥貴族に牛耳られている現在の社会で地位を得るには、やはり金と縁故が要る。今のリィウスにはどちらもまったく無い。
苦い想いを噛みしめ、自分にそんな劣等感をいだかせる相手の前から、一刻も早く去りたく、リィウスは「では」と愛想のない言葉を吐いて、背を向けようとした。
「まぁ、待てよ」
強く腕を握られ、リィウスは逆上しそうになるのを必死におさえる。
なにが嫌いといって、この男のこういうところが一番鼻につく。
今までにも出会いがしら、通り過ぎに話しかけられ、妙にからまれ、いくらこっちが無視しようとしても、こうして腕や肩をつかまれ、強引に引きずられる。そして触れてきた力の圧倒的強さに、どうしても己の非力を痛感させられてしまい、内心歯ぎしりさせられる。経済的にも社会的にも、一個の人間としても、この男は断然リィウスより強い。その強さを力ではっきりと誇示してくるのだ。
「どうせ、暇だろう? 付きあえよ。そんなしょげた顔をしないで、たまには女遊びでもしてみろよ。気が晴れるぞ。な?」
ちょうど頭ひとつ分リィウスより高く、横幅はほとんど倍ありそうだ。かといって、体格だけで知性がないという類の男でもない。貴族の道楽息子と侮ってはいても、ディオメデスは実は学問も抜きんでていた。
幾度か議論を交わしたこともあるが、最後のところで、ディオメデスはあっさりと退いてしまう。勝つことに固執していない様子が見え見えで、真剣にやっている自分が間抜けに思えてしまう。そう思わせるために、敢えて退いて、さっさと降りてしまうのだろう。
そういうところがリィウスをいらだたせる。立派な頭脳と体格を持ちながら、彼からは、それを国家のために使おうという理念も思想も感じられない。すべてに満たされているせいで、欲がないのかもしれないが、必死に生きている自分のような人間を見下し、嘲笑っているところが感じられ、それが激しくリィウスの癇にさわるのだ。
(この男とは、決して相容れないだろうな)
だが、時代は、今のこのローマは、こういう男を愛しているのだ。いくらリィウスが優秀な頭脳と高潔な性格をそなえていても、門閥貴族に牛耳られている現在の社会で地位を得るには、やはり金と縁故が要る。今のリィウスにはどちらもまったく無い。
苦い想いを噛みしめ、自分にそんな劣等感をいだかせる相手の前から、一刻も早く去りたく、リィウスは「では」と愛想のない言葉を吐いて、背を向けようとした。
「まぁ、待てよ」
強く腕を握られ、リィウスは逆上しそうになるのを必死におさえる。
なにが嫌いといって、この男のこういうところが一番鼻につく。
今までにも出会いがしら、通り過ぎに話しかけられ、妙にからまれ、いくらこっちが無視しようとしても、こうして腕や肩をつかまれ、強引に引きずられる。そして触れてきた力の圧倒的強さに、どうしても己の非力を痛感させられてしまい、内心歯ぎしりさせられる。経済的にも社会的にも、一個の人間としても、この男は断然リィウスより強い。その強さを力ではっきりと誇示してくるのだ。
「どうせ、暇だろう? 付きあえよ。そんなしょげた顔をしないで、たまには女遊びでもしてみろよ。気が晴れるぞ。な?」
10
お気に入りに追加
162
あなたにおすすめの小説



どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる