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再開花 八
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最初の言葉はやさしく、後の言葉を残忍そうにエゴイは告げ、アベルが青ざめ悔しがる様子をたのしみ、最後には強引に抱擁し、頬といわず、額といわず、唇といわず、顔じゅうに接吻の雨を落としてくる。たしかに、彼は彼なりに狂った愛情をアベルに持っているらしいが、なんの慰めにもならなかった。
これから先、アベルを待ち受けるのは、懐かしい故郷ではなく、淫獄の獄舎である。その獄のなかで、アベルは貴族でも騎士でも、男でもなく、いや、人でさえなくなり、一匹の性獣に堕とされ、愛玩動物のように、ひたすら主の気まぐれな愛撫を待ち、玩弄されるだけの人生を送ることになるのだ。
「アベル様……お飲みものをお持ちしました」
入ってきたのは、帝国人の侍従ではなく、グラリオン宮殿のお仕着せを着た少年――、と思ったら、そこにいたのは盆を持ったエリスだった。
「今日一日だけ、小姓の仕事をさせてもらうように頼んだのです」
そのためにエリスは唯一の財産だという蒼玉の飾り物を小姓にわたしたという。
「最後に、どうしてもお別れの御挨拶がしたくて……」
言われても、返す言葉が見つからずアベルは唇を噛んだ。
恨みがないとは、間違っても、夢にも言えない相手である。
いくらそれが勤めとはいっても、カイやアーミナとともに自分を責め、嬲り、無垢だっアベルの肉体を、こんな呪われた身体につくり変えた連中の一人である。今思い出しても、頬が燃える。
「今は帝国の装いなのですね。その白絹のチュニックもお似合いですが……、でも、アベル様は、グラリオンのお召し物の方が似合っていた気がします」
アベルはやはり答えなかった。一瞬、エリスは寂しそうな顔になったが、意を決したように告げた。
「……アベル様、逃げませんか?」
アベルは息を飲んでエリスを見た。即座に断りの言葉が出ない。
「ど、どこへ逃げるというのだ?」
「陛下、いえ、前王の領地へ。裏庭に馬を手配しています。今は帝国兵で庭はごったがえしていますから、帽子をかぶって紛れこめば、気づかれずに宮殿を出れます」
「な、何故、私が王の、前王のところへ行かねばならないのだ?」
アベルは憤然として訊いたが、エリスは当然といわんばかりに返した。
「そこしか、アベル様の居場所はもうないからです」
「何を言っている!」
アベルは苛立ちに叫んでいた。
前王こそ、アベルの不幸の一番の始まりだった。そんな憎い男のもとへ、なぜ行かねばならないのか。
これから先、アベルを待ち受けるのは、懐かしい故郷ではなく、淫獄の獄舎である。その獄のなかで、アベルは貴族でも騎士でも、男でもなく、いや、人でさえなくなり、一匹の性獣に堕とされ、愛玩動物のように、ひたすら主の気まぐれな愛撫を待ち、玩弄されるだけの人生を送ることになるのだ。
「アベル様……お飲みものをお持ちしました」
入ってきたのは、帝国人の侍従ではなく、グラリオン宮殿のお仕着せを着た少年――、と思ったら、そこにいたのは盆を持ったエリスだった。
「今日一日だけ、小姓の仕事をさせてもらうように頼んだのです」
そのためにエリスは唯一の財産だという蒼玉の飾り物を小姓にわたしたという。
「最後に、どうしてもお別れの御挨拶がしたくて……」
言われても、返す言葉が見つからずアベルは唇を噛んだ。
恨みがないとは、間違っても、夢にも言えない相手である。
いくらそれが勤めとはいっても、カイやアーミナとともに自分を責め、嬲り、無垢だっアベルの肉体を、こんな呪われた身体につくり変えた連中の一人である。今思い出しても、頬が燃える。
「今は帝国の装いなのですね。その白絹のチュニックもお似合いですが……、でも、アベル様は、グラリオンのお召し物の方が似合っていた気がします」
アベルはやはり答えなかった。一瞬、エリスは寂しそうな顔になったが、意を決したように告げた。
「……アベル様、逃げませんか?」
アベルは息を飲んでエリスを見た。即座に断りの言葉が出ない。
「ど、どこへ逃げるというのだ?」
「陛下、いえ、前王の領地へ。裏庭に馬を手配しています。今は帝国兵で庭はごったがえしていますから、帽子をかぶって紛れこめば、気づかれずに宮殿を出れます」
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「何を言っている!」
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