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再開花 七
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だが、絶対と信じた宮殿や後宮や王も、なんと脆いものだったのだろう。
(あたし……何やっていたんだろう?)
「おお、あそこにいた。おい、女、逃げれんぞ!」
息を切らして追いついてきた兵が、乱暴な仕草でアイーシャの肩をつかむ。
「うるさいわね! 逃げやしないわよ。ただ、王様をお見送りしていただけよ!」
アイーシャは町娘のような口調で毒づくように言い、男を鼻白ませた。
だが彼女の瞳が濡れていることに気づいた男は、肩をつかむ手から力を抜いた。どうやら、そう悪い人間ではないらしい。
「……ほら、行くぞ」
廃王の一行が見えなくなるころまで待ってくれた彼は、座りこんでしまったアイーシャの腕を引く。立ち上がったとき、アイーシャの黒瞳にすでに哀しみはない。
(なにさ。自分の国を守れなかった男なんて……、もう未練なんてないわ)
アイーシャは敵兵にむかって艶然と微笑んでみせる。
「わかったわよ。……ねぇ、あたしを売るんなら、頼むから金持ちに売ってよね」
一瞬、目を丸くした男は、色黒の顔に笑いを浮かべた。
「わかった、わかった。俺が手をまわして、おまえはうんと金持ちの御大尽に売るようにしてやる」
男は約束を守ってくれた。
ディオ王の筆頭寵姫アイーシャは、その後、帝国有数の富豪の老人に売られ、娼館や後宮で習った閨房術によって老人の寵を得、彼亡きあと遺産分けをしてもらい、帝国に東方風の娼館をつくり、娼館の女主としてそこそこ成功した。
歳を取ってからは、みどころのある若い娼婦を養女として、次の当主として教育し、引退後は養女の保護のもと、平和な老後をおくり、当時の人間としては長寿なことに、七十三歳で異国の地に眠ることになる。
アベルは当てがわれた部屋で、迎えの兵とエゴイが来るのを待っていた。控えの間には侍従が一人いる。
あれからドミンゴは寄せつけなかった。もはや彼はアベルにとっては他人だ。ドミンゴは縋るような目で自分を見たが、アベルがその目を見返すことはなかった。
アベルの恥ずかしい姿をあますことなく見、しかもその痴態を絵に残した男である。これからもドミンゴはアベルが結婚式の宴で辱しめられていたすべてを絵にするという。泣いて縋られても許せるわけがない。
歯を抜いたせいか、彼の頬が腫れているのに目を引かれはしたが……、交わす言葉など持てない。なにより、どんな顔をして会えばいいのかわらかないのだ。
(……これから、帝国に戻っても誰にも顔を合わすことなどできない)
知っている人間に会うたびに、相手はあの絵を見たのかどうか疑わねばならないのだ。この先どうやって生きていけばいいのか。
「安心しろ。このまますぐ別荘へ連れて行ってやる。誰とも顔を合わせる必要はない。まぁ、時には客を呼ぶかもしれないがな」
(あたし……何やっていたんだろう?)
「おお、あそこにいた。おい、女、逃げれんぞ!」
息を切らして追いついてきた兵が、乱暴な仕草でアイーシャの肩をつかむ。
「うるさいわね! 逃げやしないわよ。ただ、王様をお見送りしていただけよ!」
アイーシャは町娘のような口調で毒づくように言い、男を鼻白ませた。
だが彼女の瞳が濡れていることに気づいた男は、肩をつかむ手から力を抜いた。どうやら、そう悪い人間ではないらしい。
「……ほら、行くぞ」
廃王の一行が見えなくなるころまで待ってくれた彼は、座りこんでしまったアイーシャの腕を引く。立ち上がったとき、アイーシャの黒瞳にすでに哀しみはない。
(なにさ。自分の国を守れなかった男なんて……、もう未練なんてないわ)
アイーシャは敵兵にむかって艶然と微笑んでみせる。
「わかったわよ。……ねぇ、あたしを売るんなら、頼むから金持ちに売ってよね」
一瞬、目を丸くした男は、色黒の顔に笑いを浮かべた。
「わかった、わかった。俺が手をまわして、おまえはうんと金持ちの御大尽に売るようにしてやる」
男は約束を守ってくれた。
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歳を取ってからは、みどころのある若い娼婦を養女として、次の当主として教育し、引退後は養女の保護のもと、平和な老後をおくり、当時の人間としては長寿なことに、七十三歳で異国の地に眠ることになる。
アベルは当てがわれた部屋で、迎えの兵とエゴイが来るのを待っていた。控えの間には侍従が一人いる。
あれからドミンゴは寄せつけなかった。もはや彼はアベルにとっては他人だ。ドミンゴは縋るような目で自分を見たが、アベルがその目を見返すことはなかった。
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知っている人間に会うたびに、相手はあの絵を見たのかどうか疑わねばならないのだ。この先どうやって生きていけばいいのか。
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