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再開花 五
しおりを挟むアベルがグラリオンを発つ日がきた。
宰相の息子は帝国領となったグラリオンの君主として、名ばかりとはいえ王の称号を持つことをゆるされ、形のうえではグラリオンは王国として継続することになり、怖れていた反乱も起こらず、平和に、ささやかな戴冠式がとりおこなわれた。
だが、後宮は徹底的に改革、刷新されることになり、女たちの数が大幅に削減されることになったのだ。
後宮には、先代、先々代の国王や、亡き兄王子に仕えていた寵姫側室たちが大勢いたが、彼女たちは皆追放同然に、実家に帰されるか、帰る家のない者は、地方の神殿に追われた。宦官長ハラムもまた地位を剥奪され、神殿に追われることが決まった。
宰相に言わせれば、哀れではあるが、国費削減のためにいたしかたない、のだそうだ。彼女たちに仕えている侍女婢めの食い扶持だけでも、グラリオン宮殿にはかなりの負担だったという。さらに、あまった女たちは、帝国の軍に請われるままに与えられた。
「待て! 逃げるな!」
「いやぁぁぁぁ!」
その日、後宮には女たちの悲鳴が響きわたった。
東方の女たちは帝国はじめ西の国々では高値で売れる。側室愛人、召使や奴隷として、もらい受けたいという帝国の将軍たちによって、若く美しい女たちは、まるで市場の野菜か肉片のように振り分けられていく。
数日前、結婚式の日の朝、花びら敷いた床の上を、屠られる牛馬同然に曳かれていくアベルを笑って見ていた女たちが、今度は、それこそ自分たちが羊か子牛のように敵の男たちの手に選り分けられていくのだ。
なかには、それを恥じ恐れ、昨夜のうちに毒を飲んだり小刀で喉を突いて死んだ者たちもいる。
そのなかには、凛々しげな美しい顔立ちをした宦官の少年もいた。
カイである。
調教師という後宮独特の特殊な技術者を忌む宰相によって、彼はすでに役職を解かれ、最下級の奴隷に落とされていた。血に染まった彼の衣の胸にきらめく、没収をまぬがれた唯一の財産であった紅玉の飾りものは、雑兵の手によって奪われた。
血の流れるその石床の上を、武骨な兵たちは平然と獲物をもとめて駆けていく。
「いや、いやよ!」
「おまえは、こっちだ」
「待て、その女は俺がもらうぞ」
「そっちは、俺にくれ」
位ある将たちはともかく、身分低い兵たちは遠慮もなく、捕虜を奪いあう。
「おお、これは、上物だぞ!」
一人の雑兵が、ひときわ目立った美しい女に目をとめた。
「やめてよ! 乱暴にしないで! 私は王の側室だった女よ!」
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