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再開花 三
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自分はこんな顔をしていたのか、と驚愕と羞悪のあまり、アベルの紙束を持つ手はふるえた。
さらにアベルを完膚なきまでに打ちのめしたのは、絵の下にある添え書きであり、これもまたこの当時、巷に氾濫していた淫書のように、おどろおどろしいような煽情的な文章で表現されたものだった。
『高貴なA伯爵は、哀れ、異教徒の奴隷になりさがり、異形の宦官たちによって嬲りものにされ』
『卵を挿れられ、苦しむA伯爵。だが、その顔はいつしか快楽にゆがみ』
『無情。残酷な側室によって、木馬乗りを強制されるA伯爵。最後には腰を振りつつ、下僕の名を呼び』
『無理やりに女物の下着をまとわせられ、うつむく伯爵。その様は卑猥の一言』
など、気の遠くなるほどに淫らがましく、しかも事実を毒のある言葉で描写しているのだ。アベルは本当に失神しそうになった。
「ああ……」
これらの絵は、すでにエゴイの指示によって複写され、すでに帝国内の貴族のあいだで出回っているという。
本名は伏せられているとはいえ、美貌で知られたアベル=アルベニス伯爵が異国に向かってから消息を絶ったことは噂になっており、その時期にこういうものが出回れば、見た者は当然、A伯爵がアベルだと見当をつける。もちろん、画家の想像だと言うこともできるが、これほど精細かつ微細に描かれてしまうと、絵の世界のことが、真実のこととして受け取られてしまいかねない。いや、これを見た者たちは、まちがいなくA伯爵にアベルをかさね、想像のなかでアベルを汚しているのだ。
これから先、この絵が世に出回りつづけるかぎり、アベルは名誉を傷つけられ、冒涜されつづけることになる。仮に絵の出版を禁じたとしても、すでに出回ったものから複写されることもありえるし、なにより、いったん見た者は、けっして忘れてはくれない。アベルは、貶められ、汚された者として世間に二度と顔向けできないまま生きることになるのだ。
「アベル……可愛い」
倒れかけたアベルを腕に抱きしめ、エゴイが囁くのを、アベルは睨みつけた。
「よ、よくも、こんな酷いことを……」
恨みをこめて吐き出した言葉は、男にはなんの痛痒もあたえなかった。
「ふふふ。怖い顔も可愛いな。もっといいことを教えてやろう。最初は好事家数人に渡したものだが、あっという間に評判になってな。今や、宮廷じゅうの貴族で知らぬ者はいないぐらいだ。裕福な庶民たちの手にもわたっている。要望があまりに多いので、職人の数を倍に増やして、量産するつもりだ。ご婦人からの注文も多いと聞くぞ」
驚愕と衝撃のあまり言葉をうしなっているアベルの耳に、さらにエゴイは囁く。
「続きが見たいという問い合わせも後を絶たない。今日の結婚式の様子もすべて絵に描いてもらうつもりだ。皆、おまえの美しい絵を見たくてうずうずしているぞ」
「な、なぜ……!」
なぜ、ここまでするのか、という問いに、エゴイは激しい抱擁でこたえた。
「なぜ? おまえを完全に俺のものにするためだ」
男の熱をふくんだ息が首や耳に当たり、アベルはいっそう苦しくなる。
さらにアベルを完膚なきまでに打ちのめしたのは、絵の下にある添え書きであり、これもまたこの当時、巷に氾濫していた淫書のように、おどろおどろしいような煽情的な文章で表現されたものだった。
『高貴なA伯爵は、哀れ、異教徒の奴隷になりさがり、異形の宦官たちによって嬲りものにされ』
『卵を挿れられ、苦しむA伯爵。だが、その顔はいつしか快楽にゆがみ』
『無情。残酷な側室によって、木馬乗りを強制されるA伯爵。最後には腰を振りつつ、下僕の名を呼び』
『無理やりに女物の下着をまとわせられ、うつむく伯爵。その様は卑猥の一言』
など、気の遠くなるほどに淫らがましく、しかも事実を毒のある言葉で描写しているのだ。アベルは本当に失神しそうになった。
「ああ……」
これらの絵は、すでにエゴイの指示によって複写され、すでに帝国内の貴族のあいだで出回っているという。
本名は伏せられているとはいえ、美貌で知られたアベル=アルベニス伯爵が異国に向かってから消息を絶ったことは噂になっており、その時期にこういうものが出回れば、見た者は当然、A伯爵がアベルだと見当をつける。もちろん、画家の想像だと言うこともできるが、これほど精細かつ微細に描かれてしまうと、絵の世界のことが、真実のこととして受け取られてしまいかねない。いや、これを見た者たちは、まちがいなくA伯爵にアベルをかさね、想像のなかでアベルを汚しているのだ。
これから先、この絵が世に出回りつづけるかぎり、アベルは名誉を傷つけられ、冒涜されつづけることになる。仮に絵の出版を禁じたとしても、すでに出回ったものから複写されることもありえるし、なにより、いったん見た者は、けっして忘れてはくれない。アベルは、貶められ、汚された者として世間に二度と顔向けできないまま生きることになるのだ。
「アベル……可愛い」
倒れかけたアベルを腕に抱きしめ、エゴイが囁くのを、アベルは睨みつけた。
「よ、よくも、こんな酷いことを……」
恨みをこめて吐き出した言葉は、男にはなんの痛痒もあたえなかった。
「ふふふ。怖い顔も可愛いな。もっといいことを教えてやろう。最初は好事家数人に渡したものだが、あっという間に評判になってな。今や、宮廷じゅうの貴族で知らぬ者はいないぐらいだ。裕福な庶民たちの手にもわたっている。要望があまりに多いので、職人の数を倍に増やして、量産するつもりだ。ご婦人からの注文も多いと聞くぞ」
驚愕と衝撃のあまり言葉をうしなっているアベルの耳に、さらにエゴイは囁く。
「続きが見たいという問い合わせも後を絶たない。今日の結婚式の様子もすべて絵に描いてもらうつもりだ。皆、おまえの美しい絵を見たくてうずうずしているぞ」
「な、なぜ……!」
なぜ、ここまでするのか、という問いに、エゴイは激しい抱擁でこたえた。
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