139 / 150
グラリオンの黄昏 七
しおりを挟む
「だが、安心しろ。おまえの面倒は俺がみる。アベル=アルベニス伯爵は異国で受けた傷がもとで身体を壊し、公爵家あずかりの身となって、北の別荘で終生過ごすことになる。アルベニス伯爵家は、遠縁のアビラ子爵家の子息が継ぐことになる」
それは、御前試合でアベルが打ち負かした子爵家の三男だと知らされ、アベルは身体を固くした。
「おまえは何も心配するな。俺の別荘で暮らせばいいのだ。生活の面倒はすべて俺がみる。欲しいものは何でも買ってやろう。だが、社交界や政界には二度と顔を出すことは無理だ。むろん、女王陛下と会うことも……、宮殿に伺候することも諦めてもらうしかないがな」
「そんな……」
二度と女王や祖国のために尽くすことは出来ないのだと言われて、アベルは蒼白になった。
エゴイは眉をゆがめて、アベルを見下ろす。やわらかく光るその目は、怯えた子猫か子犬を見るようだ。
「その方がおまえにとっても幸せなのだ、アベル。おまえは二度と宮廷に出ることも、かつての知己とまじわることもできない身の上になったのだ」
「……どういうことなのだ?」
たしかに、アベル自身、自分は穢れた身で、もはや昔どおりに生きることはできないと覚悟はしていたが、エゴイの口調には、そんな気持ちの問題以上に、なにか重たい意味をふくんでいるようだ。まるで、自分のここでのことが、すべて知られているような。
「アベル……」
エゴイの手がアベルの頬を包みこむ。
なぜかアベルはぞっとした。
優しいのだが、その手も、自分を見下ろす目も、奇妙に剣呑なものが感じられる。
「おまえに会わせないとな……」
エゴイは黒い目線を辺りにさまよわせると、目当ての人物を見つけ、彼を手招きする。
まさか……、という想いと、やはり、という想いがアベルのなかで交錯する。
黒いフードをかぶった男。目が合った瞬間、アベルに気を失わせた男である。
アベルは彼をまえに凍り付いていた。
「お、おゆるしください、アベル様!」
男はその場に跪いた。フードが完全に床に落ちる。
「ど、どうして……。ドミンゴ」
アベルは泣き出しそうな顔で、おのれの忠実な下僕を見下ろしていた。
それは、御前試合でアベルが打ち負かした子爵家の三男だと知らされ、アベルは身体を固くした。
「おまえは何も心配するな。俺の別荘で暮らせばいいのだ。生活の面倒はすべて俺がみる。欲しいものは何でも買ってやろう。だが、社交界や政界には二度と顔を出すことは無理だ。むろん、女王陛下と会うことも……、宮殿に伺候することも諦めてもらうしかないがな」
「そんな……」
二度と女王や祖国のために尽くすことは出来ないのだと言われて、アベルは蒼白になった。
エゴイは眉をゆがめて、アベルを見下ろす。やわらかく光るその目は、怯えた子猫か子犬を見るようだ。
「その方がおまえにとっても幸せなのだ、アベル。おまえは二度と宮廷に出ることも、かつての知己とまじわることもできない身の上になったのだ」
「……どういうことなのだ?」
たしかに、アベル自身、自分は穢れた身で、もはや昔どおりに生きることはできないと覚悟はしていたが、エゴイの口調には、そんな気持ちの問題以上に、なにか重たい意味をふくんでいるようだ。まるで、自分のここでのことが、すべて知られているような。
「アベル……」
エゴイの手がアベルの頬を包みこむ。
なぜかアベルはぞっとした。
優しいのだが、その手も、自分を見下ろす目も、奇妙に剣呑なものが感じられる。
「おまえに会わせないとな……」
エゴイは黒い目線を辺りにさまよわせると、目当ての人物を見つけ、彼を手招きする。
まさか……、という想いと、やはり、という想いがアベルのなかで交錯する。
黒いフードをかぶった男。目が合った瞬間、アベルに気を失わせた男である。
アベルは彼をまえに凍り付いていた。
「お、おゆるしください、アベル様!」
男はその場に跪いた。フードが完全に床に落ちる。
「ど、どうして……。ドミンゴ」
アベルは泣き出しそうな顔で、おのれの忠実な下僕を見下ろしていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
393
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる