黄金郷の夢

文月 沙織

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グラリオンの黄昏 七

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「だが、安心しろ。おまえの面倒は俺がみる。アベル=アルベニス伯爵は異国で受けた傷がもとで身体を壊し、公爵家あずかりの身となって、北の別荘で終生過ごすことになる。アルベニス伯爵家は、遠縁のアビラ子爵家の子息が継ぐことになる」
 それは、御前試合でアベルが打ち負かした子爵家の三男だと知らされ、アベルは身体を固くした。
「おまえは何も心配するな。俺の別荘で暮らせばいいのだ。生活の面倒はすべて俺がみる。欲しいものは何でも買ってやろう。だが、社交界や政界には二度と顔を出すことは無理だ。むろん、女王陛下と会うことも……、宮殿に伺候することも諦めてもらうしかないがな」
「そんな……」
 二度と女王や祖国のために尽くすことは出来ないのだと言われて、アベルは蒼白になった。
 エゴイは眉をゆがめて、アベルを見下ろす。やわらかく光るその目は、怯えた子猫か子犬を見るようだ。
「その方がおまえにとっても幸せなのだ、アベル。おまえは二度と宮廷に出ることも、かつての知己とまじわることもできない身の上になったのだ」
「……どういうことなのだ?」
 たしかに、アベル自身、自分は穢れた身で、もはや昔どおりに生きることはできないと覚悟はしていたが、エゴイの口調には、そんな気持ちの問題以上に、なにか重たい意味をふくんでいるようだ。まるで、自分のここでのことが、すべて知られているような。
「アベル……」
 エゴイの手がアベルの頬を包みこむ。
 なぜかアベルはぞっとした。
 優しいのだが、その手も、自分を見下ろす目も、奇妙に剣呑けんのんなものが感じられる。
「おまえに会わせないとな……」
 エゴイは黒い目線を辺りにさまよわせると、目当ての人物を見つけ、彼を手招きする。
 まさか……、という想いと、やはり、という想いがアベルのなかで交錯する。
 黒いフードをかぶった男。目が合った瞬間、アベルに気を失わせた男である。
 アベルは彼をまえに凍り付いていた。
「お、おゆるしください、アベル様!」
 男はその場に跪いた。フードが完全に床に落ちる。
「ど、どうして……。ドミンゴ」
 アベルは泣き出しそうな顔で、おのれの忠実な下僕を見下ろしていた。

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