黄金郷の夢

文月 沙織

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グラリオンの黄昏 五

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「……条件がある」
「何ですか?」
「太守となるのは、宰相ではなく、宰相の息子にしろ。彼は余の甥じゃ。まだ若いが、宰相が補佐をすればよい」
 宰相の妻は、前王が若いころに手をつけた婢女はしための娘で、ディオ王の異母姉となる。その息子は、二重の意味でグラリオン王家の血を引いているのだ。まだ十五歳であるが、この時代なら君主になり得る年齢である。
 宰相とエゴイは目を見交わしたが、宰相は頷いた。彼にとっても、彼自身が太守となって国を乗っとったと非難されるより、王の甥でもある自分の息子が新たな統治者となる方がおさまりが良いし、延臣や国民たちを納得させやすいと踏んだのだ。
「よかろう。条件をのもう」
 エゴイが頷く。
「アベルをはなせ」
 自分の名を出されても、アベルはなんの実感のないまま、二人の会話を聞いていた。王が自分の命と今後の生活を守るために降伏しようとしているのが信じられない。
「そのまえに署名していただきたい」
「……筆を持ってこい。降伏宣言を出そう」
 しばしの沈黙の後、あたりはざわめいた。悲痛な声もあれば、安堵の溜息もある。
「へ、陛下……」
 震えている宦官長ハラムに王はあっさりと言いはなつ。
「そなたらは、次の王、いや太守に仕えるが良い。太守の息子は余の甥じゃ」
「は、はは……」
 驚愕顔で成り行きを見ていた宦官たちも、やがてあきらめたように、王の降伏を見守った。
 蒼白になっていたカイたち蕾や、アイーシャたちも、つぎつぎと宰相の足元にひれ伏す延伸たちにならって、宰相の近くに行くと、床に膝をつく。もともと弱肉強食の後宮で生きてきた彼らである。心中は複雑だろうが、ディオ王自身が敗北を認めたのなら、つぎの勝者に従うだけだ。
 だが、カッサンドラだけは、新権力者に忠誠を誓う人々の列からはなれると、エゴイのそばに小走りにやって来た。
「公爵、言われたことは果たしたわ。私を国へ連れて帰ってくれるでしょう?」
「ああ、よくやってくれた。君には、女男爵の地位と領地を約束しよう」
 アベルもまた、ひたすら驚きながら事を見ていた。
「さ、手当してやるぞ、アベル」
 王が書状に署名するのを満足そうに見て、エゴイのアベルを締め付けていた腕の力がぬける。
「可哀想に……。随分辛い目に遭わせたな。こうするしかほかに方法がなかったのだ」
 エゴイは近くに脱ぎ捨てていた自分のマントをひろうと、アベルの身体にかけてくれたが、礼を言うよりアベルは気になることを問うた。
「カ、カッサンドラは間諜かんちょうだったのか?」
「俺の父が、かつてグラリオン宮殿のもてなしにあずかったときに手をつけた奴隷女の娘だ」
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