黄金郷の夢

文月 沙織

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グラリオンの黄昏 四

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 彼は彼で死を覚悟しているのだ。敵兵たちの無数のやいばのまえに平然と我が身をさらす姿は、武器も甲冑もないだけに、いっそう凛々しく勇ましく見える。
 脅されてもくじけぬ王をまえに、数秒考えこんだ顔をしていたエゴイは、咄嗟に、自身の持つ剣を褥の上で呆然としているアベルに向けた。
 あまりにも意外なことで、アベルはあっさりとエゴイの右腕に羽交い絞めにされるかたちになり、白い首に剣を当てられてしまう。
「な、なにを! ……エゴイ?」
「動くな! 動くと殺す」
 とまどっているのはアベルばかりではなく、向かいあっているアビラ子爵や背後のエゴイの傭兵たちも成り行きが把握できず、ただエゴイの指示を待っている。
「降伏しろ! 降伏せねば、アルベニス伯爵を殺す」
 エゴイの脅迫に、王は眉をゆがめる。
「なにを愚かなことを言っておる? 同国人であろう?」
「敵と通じた伯爵など、もはや帝国には必要ない。騎士の名折れだ。このままグラリオンの土にしてやる」
 その言葉はアベルの抵抗を奪う。
「……だが、陛下、陛下が降伏してくださるのなら、命は助けてやろう。帝国へ連れかえって、すべてはなかったことにして元の生活に戻してやる。陛下が降伏さえしてくれるなら、伯爵は無事に生きて祖国へ帰って、平和な人生をおくれるのだぞ」
 邪知に黒目を輝かせながら、エゴイは誘惑するような言葉で王をそそのかした。
「茶番はよせ。余は、なんと言われても降伏などせぬ。さっさと余を殺せ」
「殺してしまえば、あなたは悲劇の英雄だ。あなたを慕う者も少なくはない。復讐や、王家の復興をねらって、またあらたな争いが起こる。あなたは生きて、納得の上でこの宮殿を出て田舎で隠遁してもらうのだ。そうれすれば、いかな忠臣たちもあなたを見捨てるだろうからな。そうだ、あなたは生きながらに死んでもらうのだ」
「たわけたことを言うな」
「見ろ」
 あっ……、とアベルは声をあげそうになった。
 エゴイがかすかに刀を動かしたせいで、アベルの白い首筋に、真紅の糸がからみつく。痛みは感じないが、もう、ほんの少しで急所だ。そこを切られれば、致命的な出血が起こることはアベルも知っていた。
「さぁ、どうする? 愛しい〝妻〟を見捨てるのか?」
「貴様……!」
 しばし、ディオ王の漆黒の瞳と、エゴイの濁りをふくんだ黒目が、それぞれ火花を散らして向き合った。先に目から力を抜いたのは、王だった。
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