黄金郷の夢

文月 沙織

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グラリオンの黄昏 三

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「陛下、我がイサベラ女王の名において、グラリオンに宣戦布告します。そして、今すぐ降伏宣言を要請します。アビラ子爵!」
「お、おお」
 呼ばれてあわてふためいてアビラ子爵はよたよたと進み出てくるや、マントの下から二つの巻物の書状をさしだす。
「陛下、これが宣戦布告であり、こちらが降伏の条件でございます。グラリオンの完全統治の権を我が帝国にゆだねること。陛下は、東の地にて蟄居なさること。またその際、定められた侍従を連れていくことと、終生の生活の保護は帝国がお約束しましょう。ただし、子孫を残すことは認められず……」
「勝手なことを言うな!」
 激怒する王にエゴイは酷薄な笑みを向けた。
「恐れながら陛下、すでに陛下の軍はとりおさえられておりますし、臣下のなかにはこの約定を納得している者も多くおります。そうであろうな、宰相」
「はい」
 エゴイの配下の兵たちに剣を向けられた延伸の群のなかから、宰相がすすみ出てきた。その顔には怯えがない。おそらく、すでに敵国人であるエゴイと通じていたのだろう。
「帝国領となるグラリオンは、今後、彼を太守としていただき、すでに我が帝国への朝貢を約束してもらっております。彼の母親は前王の異母妹とか。王家の外戚ですからご安心でしょう?」
「宰相、貴様! 敵と通じておったのか!」
 獰猛な獣の咆哮のような王の一喝に、相手はやはり怯まなかった。
「このままでは、いずれグラリオンは滅びます。私はこの国を守りたいだけです、陛下」
 宰相の目は狡猾そうではあるが、真剣でもある。
「前王や亡くなった先の王太子、つまりあなたの兄上の頃からの放蕩で、国庫は破産寸前なのですぞ。それなのに、あなたはご自身の欲望しか考えておらず、これから同盟を結ばねばならぬ大国の使節を、あろうことか我が物にして男妻にしようとされる。とうてい、あなたのような享楽主義者に国の舵取りなど任せられない。いつかこうすることは……、前任の宰相のときからの考えです」
 痩せて一国の宰相にしてはそう威厳も感じられない、いたって平凡そうな外見に似合わず、その顔とたたずまいには奇妙な落ち着きがあった。それは覚悟を決めた者だけが持ちうる、ひそかな威儀いぎである。
 だが、相手の余裕のあるそんな態度に、いっそう王は手負いの獣のように烈火のごとく怒り猛った。
「認めぬぞ、余は認めぬ! グラリオンの王でなくなるなら、死んだ方がましじゃ! 今すぐ余を殺せ! 余はこのグラリオン宮殿で生まれた。余がこの宮殿を出るときは死んだときだけじゃ!」
 さすがにディオ王は王者らしく潔く、敵の刃のまえに無防備な身体を堂々と向ける。
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