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最後の一日 七
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どれぐらい時間がたったか。
それはほんの須臾の間であったが、アベルは長く眠ったような錯覚を感じた。
水の底でうごめいているような感覚のなかで、アベルは泣きじゃくりながら、腰を動かしていた。
最初に感じた救いのような痛みは、だが、すぐに消えてしまい、次に襲ってきたのはむず痒い感触、焦燥感、そして、ぼんやりと熱い……疼きのようなものだった。
もどかしい疼きは、快楽の呼び水となり、アベルの下半身に、悦楽の泉水を起こした。
「ううっ! えっぐ! うう、うう、ううう!」
以前にも木馬責めを受けたときでも、これほど哀れに惨めに乱れはしなかった。
薬が強いせいか、アベルはほぼ完全に理性をうしなっていた。それでもどこまでも酷いことに、完全に消えることのない自意識は、たしかにアベルに今のこの現状――敵国の広間で、衆人環視のもと、凄まじい恰好で醜態をさらしていること――を知らせてくれる。
「ううっ、いやぁ、いやぁ! も、もう嫌、止め、止めて」
あまりの恐慌のなか、女のような言葉を口から漏らしてしまう。
「何を言っておるのだ、アベル。誰も何もしておらぬではないか。しているのは、アベル、そなただけであろう?」
ディオ王の揶揄は真実を突いていた。
今は王もエゴイも、宦官たちも誰もアベルの身体には指一本触れていない。
「うううう……」
だが、アベルはみずからおのれを辱しめる行為を止めることができなくなっていた。
手首と足に力をこめ、腰を動かしつづけ、人々の見守るなか、浅ましい動きをくりかえしている。
しかも、この期におよんでも、ほどけ切ることのない足紐が両足に絡んでいるところが、恐ろしいほどに煽情的であり、強烈に観客たちの目を刺激し、音が聞こえてくるほどに生唾飲ませるのだが、アベル自身はそれに気づく余裕もない。
今アベルを犯しているのは、男たちでも、黒檀の馬や、無機質な道具でもなく、アベル自身の身の内にひそむ、もうひとりのアベルだった。
自分のなかに、こんなにもおぞましい自分が隠れていたことに初めて気づいたアベルは、とことん墜ちていく我が身を感じていた。
「あふぅ……、うう、ああ! も、もう、やめ、やめて!」
誰に言うわけでもない言葉は、そのままもうひとりの自分へと向かっていく。
「はぁ! ああ! ああ、いや!」
白濁としたものが、真紅の天鵞絨を濡らす。
観客たちのどよめき、嘲笑 ふざけたような拍手。
それは恥辱の終わりではなく、歓楽の始まりだった。
火がついてしまった身体は、悦虐のよろこびに目覚め、次なる快楽をもとめて、ふたたび自然に動きだす。
それはほんの須臾の間であったが、アベルは長く眠ったような錯覚を感じた。
水の底でうごめいているような感覚のなかで、アベルは泣きじゃくりながら、腰を動かしていた。
最初に感じた救いのような痛みは、だが、すぐに消えてしまい、次に襲ってきたのはむず痒い感触、焦燥感、そして、ぼんやりと熱い……疼きのようなものだった。
もどかしい疼きは、快楽の呼び水となり、アベルの下半身に、悦楽の泉水を起こした。
「ううっ! えっぐ! うう、うう、ううう!」
以前にも木馬責めを受けたときでも、これほど哀れに惨めに乱れはしなかった。
薬が強いせいか、アベルはほぼ完全に理性をうしなっていた。それでもどこまでも酷いことに、完全に消えることのない自意識は、たしかにアベルに今のこの現状――敵国の広間で、衆人環視のもと、凄まじい恰好で醜態をさらしていること――を知らせてくれる。
「ううっ、いやぁ、いやぁ! も、もう嫌、止め、止めて」
あまりの恐慌のなか、女のような言葉を口から漏らしてしまう。
「何を言っておるのだ、アベル。誰も何もしておらぬではないか。しているのは、アベル、そなただけであろう?」
ディオ王の揶揄は真実を突いていた。
今は王もエゴイも、宦官たちも誰もアベルの身体には指一本触れていない。
「うううう……」
だが、アベルはみずからおのれを辱しめる行為を止めることができなくなっていた。
手首と足に力をこめ、腰を動かしつづけ、人々の見守るなか、浅ましい動きをくりかえしている。
しかも、この期におよんでも、ほどけ切ることのない足紐が両足に絡んでいるところが、恐ろしいほどに煽情的であり、強烈に観客たちの目を刺激し、音が聞こえてくるほどに生唾飲ませるのだが、アベル自身はそれに気づく余裕もない。
今アベルを犯しているのは、男たちでも、黒檀の馬や、無機質な道具でもなく、アベル自身の身の内にひそむ、もうひとりのアベルだった。
自分のなかに、こんなにもおぞましい自分が隠れていたことに初めて気づいたアベルは、とことん墜ちていく我が身を感じていた。
「あふぅ……、うう、ああ! も、もう、やめ、やめて!」
誰に言うわけでもない言葉は、そのままもうひとりの自分へと向かっていく。
「はぁ! ああ! ああ、いや!」
白濁としたものが、真紅の天鵞絨を濡らす。
観客たちのどよめき、嘲笑 ふざけたような拍手。
それは恥辱の終わりではなく、歓楽の始まりだった。
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